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インタビュー

コマツ産機 代表取締役社長 長利 啓正 氏  

プレス生産百年、さらなる成長もお客様と共に 

プレス機生産100年の節目を迎えたコマツ産機。同社の大型プレスは今も昔も、国内外の自動車工場で黙々と車体部品を打ち抜く。得意のサーボプレスはダイクッションもサーボ駆動で省エネ性が高く、これが競争力の源泉に。中・小型ではアジャイル開発した400tサーボプレスがEVやエアコン需要を取り込み好評だ。車体で進むハイテン化には、スプリングバックを抑える高剛性プレスの開発で対応する構え。4月に就任した長利啓正社長に成長戦略を聞いた。

おさり・ひろただ 埼玉県出身の58歳。東北大学工学部材料加工学科卒業後1990年に小松製作所に入社。産機事業本部(現コマツ産機)への配属を希望し生産技術や調達業務を担う。08年コマツアメリカインダストリーズ社長、13年コマツ産機執行役員販売サービス本部長、15年コマツインディア副社長、20年コマツ産機執行役員事業管理部長、21年小松製作所金沢工場長。24年4月から現職。趣味はゴルフ。「周りに悪い仲間がいましてよく誘われるんです」

——4月に社長に就任されました。ご経歴をお願いします。

1990年に小松製作所に入社し、産機事業本部(現コマツ産機)を希望しました。当時石川県の粟津に最新鋭の産機の工場ができ、産機を希望したんです。その後はざっと生産技術や調達などモノづくりの仕事が半分、営業サービス系が半分。海外も米に約8年、印に4年弱赴任しました。21年から3年ほど小松製作所金沢工場の工場長も務めました」

——社内へはどんな発信を。

「課題を解決するために、変えるのが自分の仕事だと思っています。変化の激しい時代にスピーディに対応できる体制を整えるべく事業運営や商品開発のやり方を変えていきます」

——どの分野で成長を狙う。

「まず大型プレス機。業界内のプレゼンスも高いと自負しています。波は激しいですが当然ここは伸ばしたい。小型プレスも適宜モデルチェンジし地位を維持拡大します。昨年発売の加圧能力400㌧のサーボプレス『H2W4002』はアジャイルに開発しました。新興国でエアコンが伸びています。従来は300㌧が最大でしたがエアコンも大型化してきました。EV系のワークも視野に入れています。素早い開発のおかげで引き合いは好調です。板金機械は建機とのシナジーを重視したい。コマツの建機製造に我々の板金機械や溶接ロボットが貢献して、そこで勉強し商品力を上げまた貢献するというサイクルを回します」

——伸ばす国は。

「お客様の進出先によりますがインドは重要市場。間違いなくいつか世界一の国になると思います。価格には世界一シビアですが、何とか歯を食いしばって日系企業の成長についていく。(赴任経験を踏まえ)勢いを肌で感じますね。メキシコも注目ですが米大統領選まで様子見です」

——景況は。

「大型プレスは昨年かなりの受注を頂き、相当の受注残があります。今年は一服感がありスローでしたがここにきていくつかの大型案件の受注があります。中・小型プレスは弱含み。板金も小型プレスと似た動きです。良いのはEVのバッテリー関係。エアコンやヒートポンプも欧州やアジアで堅調です」

——ご自身が会長を務める鍛圧機械工業会は今年の受注見通しを下方修正しました。

「投資がやや先送りになっています。日鍛工の数字は大型プレスが決まると一気に伸びますが、今年はおそらく他社も含め受注が少なかった。ただこのまま大型が何も決まらないとは考えにくい。今から大型が少しずつ動くと、通期では期初に描いた昨年度並みに近い線まで戻る、というシナリオはまだありえます。小型プレス・板金機械についても自動化や省エネのための投資意欲は強く、需要は回復すると考えています」

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アジャイル開発した2ポイントサーボプレス「H2W400-2

■大きく高剛性なプレスが必要

——ギガキャストなど車体の一体成形が注目されています。

「要注意技術です。ただ一部で採用されてもメインストリームになるとは考えにくい。2030年使える高価な既存のプレス機を新技術にすぐに総入替えすることにはならないはずです。CO2排出量の問題もあります。アルミの精錬は鉄より10倍程度多くCO2を排出し、車体のアルミを循環させる仕組みも今はない。楽観はしませんが少なくとも数年でガラッとは変わらないはずです。それより我々の仕事はより能力が高くより剛性の高いプレス機の開発。トランスファープレスのワークが薄肉化・高ハイテン化し、新たな冷間材も生まれています。スプリングバックを抑える高剛性のプレス機が必要です」

——自動車メーカーへの納入実績が豊富です。何が評価されているのでしょう。

「いろいろありますが一つは生産性、成形性の高さ。それに加えCNへの関心が高まる今日においては、CO2排出の少なさです。我々のサーボタンデムプレスラインは30年使えばメカ式と比べ約1万㌧以上のCO2削減効果があります。カーボンプライシングで評価すると大きな価値となります。ダイクッションもサーボ駆動なので、プレス成形時にダイクッションのモーターで回生発電もします。4点が個別に圧力を変えられるダイクッション性能やアフターサービス力も評価頂いているのではと考えています」

「トヨタ自動車さんとも古いお付き合いです。1934年に豊田自動織機製作所自動車部様(現在のトヨタ自動車)に納めその後トヨタブラジルで稼働した89才のプレス機が、工場閉鎖に伴いトヨタ本社工場へ里帰りする計画が進んでいます。今後も現役で稼働するそうですよ」


■大型プレス+超大型建機=安定操業


2021年から3年間、小松製作所金沢工場の工場長を務めた長利社長。同工場は大型プレス機と鉱山用の超大型建機を生産。長利社長は「どちらも波が激しいが出荷のピークやボトムの時期が必ずズレる」と説明する。両製品とも顧客の購買意欲が高まる時期はほぼ同じだが、生産リードタイムは鉱山用建機のほうがカスタマイズ商品である大型プレスよりかなり短いためだ。鉱山用建機の生産機種を拡大することでプレスを含めた工場全体の操業度の安定に寄与した。