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インタビュー

デンソー 先進プロセス研究部ADM研究室次長 寺 亮之介 氏

AMで金型保管などの商習慣を変えたい

金属AM(Additive Manufacturing、3Dプリンター)はどんな形状の部品でも作れる、という触れ込みだが日本の自動車への採用事例はごくわずかにとどまる。コストはもちろん、品質を保証するプロセスが『激ムズ』だと寺亮之介次長はいう。出口の見えない研究の原動力は「AM技術で金型保管などの古い商習慣を変えたい」という想いだった。

——日本でのAMの取り組みは後れを取っていると言われますが。

「当社ではAM90年代前半から樹脂を中心に試作で用いていました。2015年ごろに金属AMを導入して試作に用い、17年ごろから『100年に一度の変革』を迎えモノづくりのやり方を変えないといけないと、製品に用いられないかと検討を開始しました。ところが、5年たっても、我々も含め自動車業界が製品に近づけたか、といえばまったく進歩していなかった。我々がリーダーシップを取り本気で流れを変えないといけないと『補給品代替製造』の検証取り組みを多くの企業と協力して開始しました。補給品とは新モデルの登場などで量産を終了した後に補修などを目的にした小ロット生産のことで、古い金型を保管しておかないといけないなど課題が多いものです」

——貴社のAMでの取り組みは。

「材料をコントロールする部分が肝となります。例えば鉄を削る、という加工では、鉄の物性はわかっているので、材料の品質は保証されています。AMでは物性をいかようにもコントロールできる反面、欠陥も生じさせる可能性があり自動車で使える品質をどう保証していくかが『激ムズ!』なんです」

「金属が溶けて固まるプロセスを検証し、プロセスと物性を紐づけていく研究を進めています。一般的なアルミ材であれば、既存品とほぼ同等の品質を得られるところまで来ました。これまで以上の高強度な製品も作れるのですが、同等品をつくるというのが制御の目標値です。実際にAMで作った部品をテストベンチに組み付けて信頼性試験もクリアしました」

——課題は。

「コストダウンです。今のAM業界では将来的にコストダウンしていくロードマップが見えません。ただ我々ユーザー側の自動車産業側が『いつか安くなるだろう』と静観して、要求値すら伝えてこなかった責任も大きい、と思います。材料となる金属粉末を安くするには、マスを稼がないといけない。ビックユーザーである自動車産業が、材料を一本化して大量購入する必要があります。設備の高速化も重要です。例えば当社では、一つの選択肢として米国のスタートアップ企業『Seurat Technologies』に出資を決めました。エリアプリンティングというレーザーを面で照射する技術により高速化が叶います。これが実用化されれば我々が目標としている100倍から1000倍の速度に目途がつきます」

■自動車産業で材料一本化

——各社の協調領域である補給部品で標準化できるのでは。

「前出の材料の一本化によるコストダウンという部分とも重なるのですが補給品カテゴリーでADC12という材料でダイカスト製品の置き換えを試みています。それがもし叶うならほとんどのアルミ部品がカバーできます。これを日本の自動車業界で標準化し、やがては海外メーカーでも自由に使えるようなスキームにしたい」

——金型の保管問題などの社会課題解決に繋がりますね。ただ、設計変更として一つ一つ品質保証をしなければいけない、となるとコストに見合わないのでは。国レベルで動かないといけないようにも感じます。

「おっしゃるように、数十個の部品のためにそこまで手をかけるのか、というコスト問題は最大のボトルネックです。ただ、我々は今ある制度や基準の中で、補給品代替製造を目指していくというスタンスです。補給品での実績を積み上げて、従来品と同等に使えるという担保を作り、そのエビデンスを元に設計変更というプロセスを経ずに使えるようにしていくにはどうすべきかを考えています」

——研究の原動力は。

「我々は、多くのお取引先様に支えられて商売が成り立っています。補給品カテゴリーではそのお取引先様に大きな負荷をかけており、大変心苦しく思っています。当社のモノづくりのトップである海老原次郎生産革新センター長・調達グループ長とも話していますが『商習慣をAMで変えたい』。完成車メーカーにはタイムリーに補給品を提供し、お取引先様は古い金型を適宜破棄できる、そういう世界に変えたい」

「その先には、そもそも保管問題そのものがない時代になります。我々はブリッジマニファクチャリングと呼んでいますが新型車の試作はAMで行い、量産は金型で、量産終了後はAMに戻すわけです。日本の素晴らしい金型技術と共栄していく勝ち筋だと思います。時代に合わなくなった商習慣をテクノロジーで変えていくことが、日本のモノづくりの再成長へ繋がると信じています」

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独自開発の「金属AMプロセス可視化装置」

■ひとこと


独自に3Dプリンターも開発した。同社では「金属AMプロセス可視化装置」と呼び、金属粉末の状態やレーザーの溶融を確かめながら造形できる。「状態と物性の紐づけを行っています。例えばパーティクルが入った場合どのような欠陥を生じるかなども分析しています。何を制御すれば欠陥をなくせるか、ノウハウを獲得しています」(寺氏)。取材時はレーザーの条件を変えて、溶融の温度や大きさ、結果を観察していた。「AIを用いる方法もありますが、発生頻度が低い現象もあるので地道に分析しています」と話した。

(2024年9月25日号掲載)