1. トップページ
  2. インタビュー
  3. 北川鉄工所 岡野 帝男 社長

インタビュー

北川鉄工所 岡野 帝男 社長

人材育成とともに成長市場強化と事業構造の転換を

旋盤用標準チャックで国内シェア60%を誇る北川鉄工所。パワーチャックやNC円テーブル、ロボットハンドを扱う「工作機器事業」のほか、鋳物や自動車部品の加工を手掛ける「金属素形材事業」、コンクリートプラントやタワークレーンで大きなシェアをもつ「産業機械事業」、半導体関連事業など数々の事業を擁し、産業を支えるモノづくりを行っている。100年以上続く歴史のなか、今年6月に創業家以外で初となる岡野帝男社長が就任し、新たな節目を描く。企業経営に精通する岡野社長に今後の成長戦略を聞いた。

――岡野社長が見る貴社の強みと、取り組みたいことは。

「機械メーカーとして開発力や安定した生産技術力、高い品質をこれまで維持してきました。それに磨きをかけつつ、新たな領域に挑戦します。昨年はM&Aにより半導体業界に進出しました。売上の多くを占める自動車分野と異なる産業ですから、シナジー効果をしっかりと発揮したいですね。このほか、さらなる飛躍のために開発力強化や自動化・省人化への対応も急がれます。取り組み事項が多いなかでこの先5年、10年を見据えた人材育成が非常に重要です」

「若手に限らず、中堅社員も含めて能力開発に取り組み、足りない部分を主体的に考え、乗り越えようとする力を養ってもらいたい。当社は機械メーカーですが、ソフト開発などにも人材育成の手を掛け、コミュニケーション強化を図ります」

――組織体制としてカンパニー制度を採用されていますが。

 カンパニーや半導体事業の区切りに捉われず、横断するようなコミュニケーションを推進します。時代の変化が大きいからこそ、役職抜きのフラットな議論で若い人の意見を取り入れ、活かすことが大切です。その一環で、社長ではなく『岡野さん』と呼んでくれと伝えていますが、まだ浸透していない(笑)」

――昨年、半導体業界にも新たに参入されました。

「株式取得した半導体関連事業会社2社を合併して新たに北川グレステックを設立しました。半導体は成長が著しいですから、素形材事業や工作機器事業で活かせる部分はなにか、半導体業界の知見がない中、どのような連携ができるかを検討しています。タイミングにもよりますが、今後もM&Aは選択肢の一つとしてあります」

「現在、売上構成比率が最も大きいのは素形材事業です。次代を見据えた事業構造転換として、素形材、産業機械、工作機器、そして半導体事業を含むその他事業が同率に近づくように、リソースの配分も考えていきたいです」

■新風で企業成長の風土育てる

――創業家以外で初となる社長就任です。

「前職の広島銀行時代から10年ほどお付き合いはあったものの、当時社長だった北川祐治会長から打診があった時は非常に驚き、モノづくり企業の社長が務まるのかと思いました。しかし、前職でもモノづくり企業の支援を行ってきた経験や好きな業界であったことと、自分が心掛けていた顧客本位の仕事のやり方が活かせると考えました」

10数年前にある支店にいた時、とある半導体企業への融資話が持ち上がりました。当時は大多数が融資に反対でしたが、私は半導体が成長産業であることと、技術力もあり地元の人材雇用に積極的な会社だと上層部に直談判して説得したことも。結果、その会社は10年で上場を果たしました。顧客本位で企業成長を支えることを貫いてきました」

――豊富な経験とモノづくり企業への熱意が目に留まったと。

「これまで創業家で経営してきたなかで、私に求められるのは大きな変化であると感じています。会長に『岡野さんは新しいもの好きだから選んだ』と言われています(笑)」

――各カンパニーにおける今後の戦略は。

「金属素形材は売上の多くが自動車産業ですので、ターゲットとする業種を柔軟に拡げたいですね。半導体製造装置にも鋳物素材は使われますし、ロボット産業など伸びしろのある所に手を伸ばし、将来を見据えた素材開発も行いたい。産業機械では次の柱として環境ビジネスに挑戦します。また、リードタイム圧縮やクレーンの自動運転や遠隔操作なども課題として取り組みます。工作機器では自動化・省人化に資する製品の市場投入を。旋盤チャックのジョー自動化システム『BR-AJC』を中心に、新製品の大型アルミワークに対応する『RKT-600』、3爪測長グリッパを11月のJIMTOFでお披露目します。他にも業界の課題として製品の省エネやコストの低減も実現させたい。今、本社工場の建替えに伴い工作機器の新工場を建設中です」

――海外拠点の強化も。

「インドにはチャックの製造部門を作り、12月に完成、来年以降に生産開始予定です。鋳物の生産ラインのあるメキシコでは営業力の強化を。点在する海外拠点では特に、現場である程度の技術的な回答ができるセールスを育てていく必要があります」

――組織作りの方針は。

「顧客ニーズに基づいた開発や、社員にチャンスを与えチャレンジできる風土づくり、そしてイノベーションを起こすこと――。壁にぶつかった時、社内に相談相手や手を差し伸べる人がいること。それが会社の成長に繋がると私は考えますし、そういった組織作りをしていきます」


PROFILE


岡野帝男(おかの きみお)=広島県出身。1986年広島銀行入社。21年取締役常務執行役員を経て、22年しまなみ債権回収代表取締役会長。23年に北川鉄工所非常勤顧問に就任、24621日付より現職。趣味は「妻孝行を兼ねた温泉旅行とドライブ、そしてゴルフ」



(2024年9月25日号掲載)