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インタビュー

シチズンマシナリー 伊奈 秀雄 社長

「町工場目線」の顧客対応でグローバル市場に挑む

11年間に渡りシチズンマシナリーを力強く牽引してきた中島圭一氏。その後任として抜擢されたのが、技術畑の出身ながら国内外の営業活動・顧客対応にも明るい伊奈秀雄氏。生家は東京・大田区の町工場。モノづくりの現場に寄り添った提案力に定評のある同氏に、社長就任に至るまでと今後の成長戦略について聞いた。

――入社のきっかけは。

父親が小さな町工場をやっていまして、幼いころから常に機械に囲まれた環境で育ちました。父は1970年代からNC機を導入していまして、それを動かすのを見るのが楽しくて、工作機械に興味を持ちました。工場にシチズン精機(シチズンマシナリーの前身)の機械もあったことも大きかったですね。

とりあえず、何年か勤めたら工場の跡継ぎとして戻ればいいや、と思っていたのですが、だんだんとこちらの仕事が楽しくなってきてしまいまして、現在に至ります。

――お父様は「大田の工匠100人」にも選ばれています。工場は現在も稼働されていますか?

いまだに現役として頑張っているようです。以前と違い、大量生産ではなく10個、100個といった少量生産にシフトしているようです。いわば趣味で旋盤を続けているようなものではないかと。

大田区の方からは、「同じ業界で仕事をしているにも関わらず、息子が家業を継がない珍しいケース」と言われました。

――入社後、生産技術を経て営業技術としてキャリアを積まれています。

もともと町工場の息子なので、お客様の元に行くのは実家に帰るような感覚です。様々な加工現場を渡り歩いていくうちに、お客様の技術の凄みや困りごとが一層良く分かるようになりました。

機械をセットアップして、使い方を説明するだけではない面白さがあり、やりがいや手応えを感じていました。この仕事をずっとやっていこう、と思えた時期でもあります。そんな矢先に、営業部への異動を命じられます。三代前の社長に「営業やれ」と言われまして。

――営業部に異動されたのが2007年。リーマンショックの前年です。

当時は本当に受注が取れない、せっかく取った受注もお客様からキャンセルが出てしまう状況でした。苦しいのは我々もお客様も同じであるため、できるだけお客様に寄り添った対応を心がけました。

そもそも受注が無いので製造の人にも申し訳ない、営業としても結果が出せない。精神的に辛い時期でしたね。きつかったです。

――営業部長時代に心がけていたのは。

1台数千万円の機械を導入するということは、お客様にとっても大きな決断になります。当社の機械を入れて本当にお客様が稼げるのか、どのようなプラスが工場にもたらされるのかまで考えるようにしていました。

お客様に満足して頂いて、利益をしっかり出して貰った上で次の機械を買ってもらえるようなサイクル作りを心掛けていました。

■人材育成で市場を開拓

――不況からひと段落し、営業部長として軌道に乗ってきたところで、今度は中国法人への異動となります。

以前に当社では海外赴任についてのアンケートがありました。その中の海外赴任を希望するかしないかという設問に対し、私は「希望しない」と書いたのですが。

入社以来、私はずっと軽井沢本社の勤務で国内拠点への異動すらありませんでした。知見を広げる機会をいただき中国へ赴くことに。ちょうど、中国株が大暴落した2015年頃になります。

中国法人では、在庫が工場に滞留していて、それをなんとかしないと新しい機械の生産が出来ません。資金繰りも含めてですね。とにかく売ろうっていうことで、 色々と悪あがきをしましたが、本当に売るのが難しい時期でした。それでも2016年頃から回復の兆しが見え始め、軌道に乗せることが出来ました。

――2018年から2020年までの英国勤務を経て、帰国後に要職を歴任されたのち、現職に就かれました。今後の展望についてお聞かせください。

当社は日本、米国、欧州、中国、アジアの5極に分け、それぞれの地域に対してポートフォリオを組み、必要な投資を行っています。一方で市場の変遷にも注視していかなければなりません。インド、ベトナム、メキシコ、トルコなどの新興市場に対する施策も講じていかなければならないと感じています。

――新興市場にはどのようなアプローチを。

現在、新興市場のお客様はいかに安価で多く台数を置けるか、という点を重視する傾向にあると聞いていますが、生産を続けていくに従い、精度や安定性を求める時期が必ず来ます。そこで、新たな提案をしていくにはサービスや加工技術といった知識を持った人材が必要になります。

今年、本社内にグローバルトレーニングセンターを立ち上げましたが、そこで国内外のエンジニアをしっかりと育成して、最新の技術を世界中のお客様にフィードバックしていく体制を構築していきます。

――貴社では2030年までに売上1000億円到達を掲げています。

お客様と長くお付き合いし、共に成長していくというのが古くからの当社の社風です。私が社長になったからといって、目先の利益を追ってどんどんやります、なんてことはありません。利益に捉われない、継続したお付き合いを目指す一方で、新しいことをいちばん最初にやる会社でありたいと思っています。

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新設したグローバルトレーニングセンターで人材育成を強化

PROFILE


伊奈秀雄(いな ひでお)=東京都出身。1988年東京電機大学工学部卒、シチズン精機入社。2021年取締役、2023年常務取締役執行役員を経て2024年4月1日より現職。趣味は読書と愛車でのドライブ。


(2024年6月25日号掲載)