1. トップページ
  2. インタビュー
  3. 山善 中国支社 森井 郷 支社長

インタビュー

山善 中国支社 森井 郷 支社長

投稿日時
2024/05/15 10:02
更新日時
2024/05/15 10:07

【中国】現地の「リアル景況感」

各シンクタンクによる直近の中国景気見通しを見てみると、いずれも「減速」「後退」「横這い」といったネガティブな言葉が並ぶ。一方で、2024年1~3月期の実質GDP成長率は前年比5・3%増と、前期から増加幅が拡大。徐々に回復へ向かう兆しも見て取れる。そこで本紙は、中国製造業のリアルな景況感と需要トレンドについて、現地駐在の商社マンに尋ねた。

――今年に入ってからの景況感は。

「この23カ月前までは完全に冷え込んでいた感じですが、この4月、5月ぐらいから、ちょっと動きが出てきているように感じます。しかし、それもお客さんによりけりです。ある人は『動き出してきた』、別の人は『もう全然ダメ』というような感じで、なんとも読みづらい情勢です」

――まだら模様の景況感のようですが、上昇を実感しているのは。

「やはり半導体業界はちょっと動き出しています。特に中国の半導体装置メーカーさん向けに、当社の得意としている機械要素部品の需要が高まっています。THKさんやCKDさんのといったメーカーの製品が好調です」

――自動車向け案件は減少傾向でしょうか。

「日系メーカーに関しては、なかなか動きがないのが現状です。もはや中国のEV市場に日系メーカーは太刀打ちできないと思います。一方で新たな投資を積極的に行っている地場メーカーも少なくありません。現在、地場メーカーからのクランクシャフト製造ラインの大型受注を纏めている最中ですが、どうやらハイブリッド車に注力していく狙いのようです」

byd秦PLUS.jpg

ハイブリッド車に注力する中国自動車メーカーが増加(写真はBYDのプラグインハイブリッド車「秦PLUS」)

――ハイブリッド車のパーツ供給なら日系サプライヤーに一日の長があると思いますが。

「日系サプライヤーからの調達となると、どうしても製造コストが上がってしまいます。ですので、地場メーカーは地場サプライヤーからの調達がメインになっており、日系は現状ちょっと入る余地がない、という状況になっています」

――中国におけるEV販売は伸び悩んでいるとも聞きます。

「補助金があったころはEVメーカーが乱立していましたが淘汰が進み、現在はBYDプラス新興メーカー5社、という図式になっています。これらのメーカーについてはある程度のボリュームの製造・販売を続けていると思います」

■ギガキャストは普及するのか

――中国におけるEV生産で、ギガキャストがブームになっています。ギガキャストメーカーは現状、LKテクノロジー社が大きなシェアを占めています。同社以外にギガキャストマシンを製造する動きはあるのでしょうか。

「日系工作機械メーカーで中国に生産拠点を持っているメーカーの中には、すでに型締め力4500㌧クラスのギガキャスト機の開発を終えており、現在は先行受注に向けて営業活動を進めている段階と聞きます。日本市場向け、というよりは中国の地場メーカーを意識した製品だと思います」

――貴社がギガキャスト市場に向け取り組んでいるポイントは。

「ギガキャストのラインを構築するとなると、それなりのノウハウが必要不可欠です。すでに現地で多くの実績を持つインテグレーターの立石さんや、前後工程に必要な機械を製作している地場メーカーとの関係強化に努めています。また、日本国内の工作機械各社の製品で、ギガキャストに向くものは積極的にセールスしていきたいと考えています」

――日本のクルマ作りにもギガキャストは普及していくのでしょうか。

「現状ではギガキャスト機の運搬から生産ラインの構築まで、クリアしなければならない課題が多々あります。また日本におけるクルマの設計はかなり細かく、一発で打ち抜くギガキャストでは対応しきれない点も少なくない。一方、コストダウンや軽量化といった明確なメリットがあるので、中長期的には日本国内にもある程度普及はしていくと思います」

――今後ギガキャストは内燃機関車やハイブリッド車にも活用されていくのでしょうか。

「間違いなくそういった流れになるでしょうね。すでに開発を視野に入れているメーカーもあるでしょう」

――依然として景気の不透明感が続く中国ですが、いつごろ景気が上向くと予測していますか。

「今年の年末から来年の初めにかけてではないかと予想しています。起爆剤となるのは工作機械ではないでしょうか。一時的に止まってしまった新エネルギー向けの需要が再燃すると言われていますし、半導体関連の需要も戻ってきます」

――今後の中国製造業の展望をお聞かせください。

「中国はこれまで大量生産、大量消費をキーワードに成長してきましたが、それが東南アジアやメキシコへ移管しつつあります。今後はどちらかというと試作に近いようなビジネスも活発になるのではと見ています。当社としては、量産向けとハイエンドの機械の両方をしっかりとフォローしてビジネスに繋げていきたいと考えています」

LKテクノロジー.jpg

LKテクノロジーのギガキャストマシン

(2024年5月15日号掲載)