インタビュー
ベッセル 代表取締役社長 田口 雄一 氏
- 投稿日時
- 2023/07/26 09:02
- 更新日時
- 2023/07/26 09:08
日本一、世界一の工具メーカーを明確な目標に
独創的な商品をどこより多く・早く
老舗工具メーカー・ベッセルの経営のバトンが2023年4月に受け継がれた。社長に就任した田口雄一氏が発信したのは「日本一の工具メーカーを目指す」という明確なメッセージ。直近で約96億円ある売上高を400億円規模へ伸長させる必要があるが、田口社長は「夢ではなく具体的な目標だ」と力強く前を向く。日本一の先に見据えるのは、世界一の工具メーカーの座だ。
――就任にあたっての心境は。
「私は祖父の故・田口輝雄(二代目社長)に『将来は会社を成長させろ』と刷り込みのように言われて育ちました。物心ついたときから夢は『ベッセルの社長』。昔から社長業に役立つことを意識して準備してきたつもりです。2022年10月からは副社長、それ以前は取締役商品部長という立場で経営に口を出してきましたから、仕事面のギャップもまったくありません。待ちに待った時がきたという心境です」
――意気込みをお願いします。
「まずはベッセルを日本一の工具メーカーにしたい。そしていつかは世界一の工具メーカーを目指すと社内外に掲げました。京セラの故・稲盛和夫氏が京都一、近畿一、日本一と段階を踏んで成長を果たしたように、パワーツールを除く工具メーカーで売上高のトップを目指すということです。当社の22年12月期の売上高は約96億円。日本一になるには400億円に伸ばす必要があると見ています。15年かかるかもしれませんが、夢ではなく具体的な道筋を伴った目標にします。会社を守るだけなら私以外に適任がいますが、私が社長を務める以上は成長を目指します」
――成長のために積極的なM&Aも視野に入れますか。
「もちろんM&Aも有効な拡大戦略のひとつです。ベッセルブランドを日本一に押し上げるうえで、社内で開発できる商品の枠を横に拡げたい思いもあります。ただイメージ戦略的に、M&A先はメイドインジャパンのメーカーに限られるでしょう。それよりも私が成長の柱に据えるのは、新製品戦略と人事改革、そして海外市場の開拓です」
――新製品戦略についてお聞かせください。
「当社の開発チームでは『横並びの発想をしない』という言葉が飛び交います。独創的で高品質な商品を作るのが我々の理念であり、これを守って開発すると良い結果が伴う例が多い。そのひとつが大ヒットした『電ドラボール』で、手回しとインパクトの中間という新市場を作った実例と言えます。単にブランドやモノを売るのではなく、お客様に解決手段を提供するという方針で開発を行います」
――独創的な製品を生み出せる背景は。
「まずは開発陣の層の厚さ。グループで約650人いる社員のうち50人近くが開発に専従しています。また2年前には試作品を作る専門部隊も立ち上げました。新商品を試作する際、生産工程と設備の奪い合いになると開発サイクルが遅れてしまいます。だから試作専用の3Dプリンタや加工機をかなりの台数導入したわけです。おかげで図面を描いた翌日には試作品ができるスピード感を実現できました。それでも2025年まで開発計画が詰まっているので、体制は随時強化します」
■OEMから自社ブランドへ
――人事改革で重視する点は。
「就任時に社員の皆さんに伝えたのは『全員が笑顔で働ける会社にしたい』ということ。人事制度を改めて働きやすさを高め、若手も会社を愛せるように理念を整理し、パーパスも新規で設定する予定です。経営者の情熱を全社員に伝播させなければ、飛躍的な成長は果たせません。外発的でなく内発的な動機付けで650人が目標に立ち向かう必要があります。人事改革はその布石でもあります」
――海外戦略はいかがでしょう。
「足元の海外売上比率は約28%。これを50%に伸ばし、北米と欧州で150億円の売上を創出したいと考えています。今は両市場ともOEM比率が高く、ベッセルブランドが浸透していません。しかしOEMは契約解消のリスクがあり、長期で考えれば10のOEMより3の自社ブランドを売る方が価値があります。そこでまず北米で、利益を下げてでも自社ブランドを多く売る戦略に転換します。数年間の赤字には目をつぶる覚悟でいますよ。そのくらいブランドの浸透を徹底し、まずは3年で今の4倍の売上を目指します」
――ベッセルの舵取りを長年イメージされてきたと思います。ご自身の考える自社の強みは。
「やはり独創的な商品を世に送り続けられることでしょう。その副産物だと思いますが、チャレンジへの耐性の高さも大きな武器と言えます。ドライバー・ビットから空圧工具に参入したり、静電気除去事業を始めたりと様々な挑戦を重ねてきました。そのたびに環境が変わるわけですが、硬直せずすぐに建設的な議論に移れる社員が育っています。要はオフェンシブな会社なんです。売上を日本一にするには時間がかかるかもしれません。ただ、日本でいちばん多く独創的な新商品を出す工具メーカーにならすぐにでもなれるはず。そのくらいの気持ちで挑戦を続けていきます」
大ヒットを記録した電ドラボールは、手回しと電動の良さを両立した
(2023年7月25日号掲載)