インタビュー
トクラス、大逆転社長が描く「カイシャの未来図」
- 投稿日時
- 2021/06/16 09:32
- 更新日時
- 2024/08/19 13:19
「不採用」からのトップ就任
「キミ、営業経験無いなら採用は難しいよ」
約30年前、転職活動を行っていた小泉青年に、トクラスの前身であるヤマハリビングテックは事実上の「不採用」を言い渡した。
トクラス 代表取締役社長 小泉 和弘 氏
「大学卒業後、マンションデベロッパーで施工管理に携わっていたのですが、バブル崩壊を機に勤め先が傾きはじめまして、さまざまな業種を視野に入れた転職活動を行っていました。ヤマハリビングテックは、自身の培った経験が生かせることと、ヤマハブランドで魅力的な製品を展開している点に惹かれて応募したのですが、最終面接で『これは落ちたな』と確信しました」(小泉社長)。
しかし、紆余曲折ありながらも不採用宣告からわずか1週間後、まさかの採用通知が届く。以来、営業畑の最前線を走り続け、自らが主導した販路との協業では、生産が間に合わなくなるほどの受注を獲得。近畿地区におけるトクラス製品拡販の立役者となった。
無論、華々しい活躍だけではない。数多くの辛酸も舐めた。個性の強い施主の案件では、通常なら数カ月で終わる現場が、数年に及んだこともあった。
「数千万円レベルの受注でしたが、施主様の要望が多く次々に工事店さんもサジを投げてしまう状況が続きました。それでも、逃げずにしっかりと向き合うことで、やがて強固な信頼関係を築くことができました。正直に申し上げますと、何度も投げ出したいと思った案件ではありましたが(笑)」(小泉社長)
こうした手腕を見込まれ、九州、東北、北関東と全国津々浦々を数年毎に異動。各地区のシェア拡大に尽力。以降、営業本部長、上席執行役員、副社長を経てこの2月に現職就任へと至った。
「親しみ量」増やし受注増へ
収束の見えないコロナ禍による営業活動への影響や資材の高騰など、住設メーカーを取り巻く環境は楽観視できるものではない。にもかかわらず、トクラス製品はシェア拡大を続けており、昨今では東日本・首都圏を中心に大きくセールスを伸長している。その原動力となっているのが、同社のベースである技術力に、高い意匠性を加えた製品ラインナップだ。
「キッチンカウンターに採用した新素材『テノール』は、人造大理石に独自の塗装を加えることで、今までのカウンターでは表現できなかった新しい質感を実現、2020年のグッドデザイン賞を受賞しました。これが各所から高い評価を頂いております。また、流行の濃色系キッチンを普及価格帯で導入できる点もエンドユーザー様の支持に繋がっていると思います」(小泉社長)
コア技術のひとつでもある塗装は、ヤマハ時代から連綿と受け継がれる職人技。同社にはかねてより「道場」と呼ばれる技能伝承の場が設けられ、ベテランが若手にスキルを伝承するとともに、より高度な技術を追求している。
こうした社内リソースの活用は生産現場だけにとどまらない。小泉社長はあらゆる部門において人材活用を加速させていく構えだ。
「会社の10年、20年先を担ってもらう、入社10年以内の社員でチームを立ち上げて、セールスやマーケティング戦略を提案してもらっています。若手の新しい発想とベテランが培った経験をうまく融合させて、会社の成長に繋げていきたいと考えています」(小泉社長)
また、営業面においても従来とは少し違った戦略で拡販を狙う。
「今後はエンドユーザー様をしっかりと意識した商品開発、プロモーションを行っていきたいです。デジタル活用などオンラインでも積極的に関わりを持てる仕組み作りを行っていきます。もちろん、日頃支えて頂いている商社様、工務店様や問屋様との『親しみ量』を増やして、エンドユーザー様に当社の製品を薦めて頂けるような関係性を構築していきたいです」(小泉社長)
この5月には、インテリアとの親和性を高めたバスルームの新製品「YUNO」、「every」、「VITAR」を相次いで上市するなど、住設市場での存在感を強めている同社。新社長の舵取りにも改めて注目したい。
5月新発売のバスルームはキッチンとセットでのコーディネイトを実現する
こいずみ かずひろ
1965年兵庫県神戸市生まれ。大学卒業後マンションデベロッパーを経て1992年ヤマハリビングテック(現トクラス)入社。以降、営業畑で辣腕を奮い営業本部長、上席執行役員、副社長を歴任。2021年2月より現職。休日は「ほとんど家に居ない」という本格的なアウトドア派。特にルアーフィッシングにおいてはプロ顔負けの腕前を誇る。