インタビュー
村田機械 L&A事業部 FA営業部長 浦谷 和幸 氏
- 投稿日時
- 2024/12/25 10:05
- 更新日時
- 2024/12/27 10:29
活況の自動化投資、景色が一変
マテハン大手、村田機械が旺盛な自動化需要を捉えている。コロナ禍で飛躍的に伸びた投資は流通分野でやや落ち着いたが、得意なFA分野の投資が加速し全体としては高水準で推移。今や投資回収期間は必ずしも重要視される項目ではなくなり、これまで自動化が進まなかった工程の投資も進みつつあると言う。L&A事業部FA営業部長の浦谷和幸氏は「自動化へのマインドが大きく転換している」と語る。
――ここ数年、空前の忙しさが続きましたね。
「コロナ禍でサプライチェーン(SC)が乱れた時期がやはり大変でした。事業部の売上も4、5年前から倍増し、我々も人材採用や工場の拡張を急ぎました。その時期をピークとすればやや需要は落ち着いたものの決して軟調ではない。表現が難しいですが『普通に忙しい』のが今です」
――ある種、忙しい状況がスタンダード化したと。
「まさにそうで、全体的な需要は力強い。FAが堅調です。製造ラインや中間倉庫など今まで自動化されなかった工程で投資が進み出した感覚があります。例えばAGVで夜間に組立ラインへ部材を運ぶキット搬送。昔はすぐ費用対効果や投資回収期間が争点になりましたが、最近はその会話がほぼ消滅し景色が一変しました。人が雇えない社会になるとの認識で、まずは自動化をとマインドが大きく転換しています。またSCの混乱で生産が止まる事態を経験し、在庫に否定的だった企業まで自動倉庫を導入し始めました」
――流通分野はどうですか。
「流通は少し苦労しています。流通は業界大手が生き残り戦略のもと、大規模な計画を立てられますが、検討期間が非常に長く、その間に建築費が高騰し、計画の見直しを迫られる例が増えています。とはいえ皆さん、いずれは進めざるを得ないと認識されています。我々は流通よりFAの売上の方が大きいのですが、流通は業界ごとにターゲッティングを行い大型DCなど特定分野で高いシェアを持っています。ですので総じて需要はハイレベルで安定的です」
――FAに強い理由は。
「顧客ファーストを掲げておりカスタマイズを厭いません。現場で鍛えた調整力で品質も担保し、スムーズに立ち上げます。手間暇かかりますが、とことん付き合うのが社風で世界中に根強いファンを得ています。特にシェアが高いのは医薬品や食品、化学、電池など品質管理の厳しい業界。こうした重点的に取り組んできた業界の投資が今、非常に活況です。食品は品質管理が年々、厳しくなり人の関与を減らす意味でも自動化率が高まっている。特に飲料系が好調で、例えば蒸留酒の熟成樽を自動倉庫で貯蔵する案件が増えています。EV投資でバッテリー関係も好調です」
――そうした分野のマテハンに求められる要素は。
「食品は全てステンレス化すると費用が現実離れするため、水や湿度が問題になる工程を理解しポイントごとの材質選定が必要。導入後のトラブル要因を予想しうまく立ち回れるかが立ち上げ期間や最終的な満足度を左右します。またバッテリーは温度帯が高い工程があり、数十の工程ごとに荷姿が変わるうえワークが大型で投資規模も大きく対応力が試されます。しかも最先端分野のため工場建設中に製品の仕様が変わることも多く、納期も短いため失敗できない。信頼性が鍵です」
■付加価値を出せる市場で
――昨今はマテハン業界への新規参入が増えました。
「それだけ自動化の地位が上がったのでしょう。業界が注目されるのは悪くない。ただ選ぶお客様は大変でしょうね。マテハンはトラブル時に真価が問われます。また上位との調整や場合によって仕事のやり方自体も変えながら進める必要があり、対応力が極めて重要。その認識がなく設備を購入され『使えない』というイメージに転じるのが懸念です。古い話ですが私も入社した頃に無人車ブームがありました。各社が安価な設備をこぞって導入し、『使えない』と烙印を押されブームがしぼんでしまいました」
――今はAMRがブームに近い状況ですね。
「実際に導入したが使われない、という話は聞きます。我々は蓄積がありますから仕様詰め段階でニーズを聞くだけでなく先回りして提案します。要するにすり合わせですね。またプレイヤーの増加に関して、もちろん危機感はあります。ただある意味、開き直って積み上げた経験を武器にしつつ、我々は我々で新たなチャレンジを行います」
――挑戦、とは具体的に何を指しますか。
「海外も含めた流通の強化、というのがひとつ。会社全体は7割が海外向けですが、マテハンは内需中心でした。今後は海外比率を拡大したい。先々を考え北米や欧州の裾野を広げます。欧州には2015年に買収したシムコープがあり、彼らはタイヤのハンドリングで世界トップ。ここ10年は流通に力を入れており、欧州の大手スーパーマーケットなど小売業界向けも好調です。彼らと村田機械は得意な業界が違いシナジー効果で新市場を開拓できる。例えばシムコープと一緒にバッテリービジネスをやろうとしています」
――長期的な見通しと戦略は。
「長期的にマテハン市場は成長するでしょう。その中でいたずらに売上を追わず、付加価値を出せる分野で勝負し堅実な成長を目指す方針です。また主力業界にマッチした製品開発も重要。ロボット倉庫のALPHABOTは自社で設計しハードも内製していますが、似通ったカテゴリの物が出ていますからより進化させそれらを凌駕する物を市場に出す必要がある。また今はコンベヤレスの流れでAGV『Premex XIO』が製造業でものすごく売れており、バリエーションの拡大を急ぎます。また強みのカスタマイズも無制限に、というわけにはいかないのでバランスが重要。その部分も手を入れ生産性を上げるのが課題です」
製造業で進むコンベヤレスの流れでAGVの販売が大きく伸長。昨今はAMRが流行しているが、精度やタクトタイムの問題で、製造業ではAGVの需要が多いという
(日本物流新聞2024年12月25日号掲載)