インタビュー
5軸加工の工程設計からプログラム作成まで自動化
- 投稿日時
- 2022/03/30 14:08
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
HILLTOP 常務取締役 山本 勇輝 氏
月平均4千種類に上るアルミ部品の試作加工に対応してきたHILLTOPが自動化プログラミングサービス「COMlogiQ」を今年から開始した。加工データベースとAI(LIGHTzと共同開発)を組み合わせることで、5軸加工のプログラム作成と段取りの時間を大幅に短縮するというもの。日本のモノづくりがグローバル競争に勝ち抜くために、工程設計から加工プログラム作成までを自動化し、生産現場の人手不足の解消と新製品開発のスピードアップ、人材育成の時間を生み出すのが目的だ。
――熟練の職人がいなくても加工プログラムと機械操作ができる点を売りにしています。
「ツールパスも含めた条件設定だけでなく、切削工具、治具、ワークのセッティング位置・方法まで、人の代わりに考えてくれます。3Dデータをユーザーインターフェイス上にアップロードした後、穴と公差を指示するだけでNCデータと加工手順書を自動で作成できます」
――加工で発生する個別の事象にも対応します。
「例えば、交差穴でバリが発生しやすいことを想定して除去工程を入れたり、ポケット穴が並ぶ場合に隣接する壁が薄くなることを予測して2穴目の送り条件を変更したりできます。治具でクランプしたときに歪みが発生する場合、応力を解析したうえで、ワークのセッティング方法や位置を指示してくれます」
――NC装置、CAMでも加工プログラムを自動化する機能があります。これらとの違いは。
「加工結果や不具合を教師データとしてフィードバックすることで、『AIが賢くなる』点です。COMlogiQは人の知見を集約したAIですから、使う人が増えるほどクラウドにある基礎エンジンが成長します。もう一つは、工程設計からスケジュール決定まで加工工程を一気通貫で自動化できることです。個々人のやり方でも、使用頻度の多い工具のように共通項がありますから、ATCの交換ルールとして落とし込めば時間をさらに短縮できます」
■導入のハードル低く
――5軸加工機の対応からスタートした狙いは。
「5軸加工機は工程集約ができるからです。動いている間は、人が介在しないので、浮いたリソースをノウハウ構築や技能承継に割けます。ただ、『5軸加工のプログラムは複雑で難しい』との認識が根強い。そのハードルを少しでも下げたい。パッケージとして5軸加工向けの治具も提供する予定です。国内だけでなく、海外でも需要があると思います。私が4年間の駐在経験で実感したことですが、米国は受注が増えてもプログラムの作成が追いついておらず、『機械は空いているけど、プログラマーがいない』というケースは珍しくありません。5軸加工のプログラマーが年収1000万円以上で採用されるほどです」
――COMlogiQの効果は。
「当社独自のデータベース『HILLTOP SYSTEM』に基づいてプログラム作成した場合と比べても、6~30倍の時間短縮ができます。さらに段取りなどが短縮できるので、コストメリットをさらに出せるはずです」
――加工する事業者から「ノウハウを生かした差別化ができないのでは」との懸念も出てきそうです。
「そういった質問もいただいています。誤解を恐れずに言えば、加工することに独自のアレンジは必要なく、図面どおりにつくることが重要です。だからこそ、ある程度の利益が見込め、省人・自動化できるルーティンの仕事はCOMlogiQに任せ、人にしかできない育成や開発に力を注ぐべきだと考えています」
「物量で勝てない日本が世界に追いつくには、最先端技術を追求してきた開発重視の立ち位置に戻る必要があります。国内の限られた需要を奪い合うのではなく、グローバル市場で勝つためには、量をこなしても利益が生まれず、売上優先で人を育てる余裕と時間をなくしている状態から脱しなければならない。そのために開発しました」
――今年1月から本格的なサービス提供を開始しました。
「まだ発展途上の段階です。効果と仕組みを知っていただくために、モニターを募集しています。全国各地で実際に使っているところを見てもらう機会を増やすだけでなく、当社が得意とするアルミ以外の加工データを蓄積する狙いもあります。アルミ、鉄、ステンレスは標準で対応し、チタンなどの難削材は個別に対応することになります」 「AIの開発はグループ会社であるThinkRが担当し、HILLTOPはサービス提供、設定作業、教師データの提供を担うことになります。基本的なサービスは、工作機械の標準仕様向けですが、パッケージをカスタマイズする必要がある特異な被削材や生産ラインについては個別に応じることになると思います。5軸加工のプログラム作成を自動化できることが話題として先行しがちですが、加工工程を一気通貫で対応することで時間を生み出せるメリットも伝えていきたいです」
(2022年3月25日号掲載)