インタビュー
防衛省 海上自衛隊 1等海佐 柳田 篤志 氏
3Dプリンターでスペアパーツ造形へ
- 投稿日時
- 2026/04/27 16:20
- 更新日時
- 2026/04/27 16:23
兵站はモノからデータに
防衛装備品の可動率向上とサプライチェーンの強靭化は、現代の安全保障における最優先課題である。その切り札として注目されるAM(アディティブ・マニュファクチャリング)技術だが、その本質は「現場で何でも作れる万能技術」ではない。海上自衛隊がいま模索する、既存の工作能力を拡張した「現実的な導入モデル」とは何か。「夢の技術(promising capability)」から如何に「現有戦闘力(warfighting capability)」に移行していくか、その航路図を未来戦・ロジスティクス研究室長の柳田篤志1等海佐に聞いた。なおAM EXPO名古屋(5月20日~22日、ポートメッセなごや)にて同氏の講演が実施予定だ。

防衛省 海上自衛隊 幹部学校運用教育研究部 未来戦・ロジスティクス研究室長 1等海佐 柳田 篤志 氏
――防衛省・海上自衛隊でAM活用を模索し始めた経緯を教えてください。
「きっかけは平成26年頃、私が防衛装備庁に在籍していた時期に遡ります。当時はまだ『夢の技術』という漠然としたイメージが先行し、予算や能力把握も不十分でした。しかし、米軍を視察した際、艦船の振動を再現する装置の上で金属AMを稼働させるなど、すでに実戦配備を見据えた研究が進んでいるのを目の当たりにし、衝撃を受けました」
「帰国後、国内では予算の制約もあり『小規模な実験設備』に留まる時期が続きましたが、その後、海上幕僚監部でロジスティック研究に携わる中で、日本AM協会の澤越俊幸専務理事をはじめとする民間技術の知見に触れ、実装可能な段階に来ていると確信しました。現在は『いかに活用するか』という具体的なロードマップの策定が必要なフェーズにあります」
――諸外国の活用状況はいかがでしょうか。
「米国はもとより、ウクライナなどでは必要に迫られる形で活用が常態化しています。私の立場はいわばシンクタンクであり、海上自衛隊の方針決定や見解を表すものではありませんが、AM活用を含む戦略が『いかに海上自衛隊の活動継続に寄与するか』を判断するための材料として、各国の成功事例を分析・提供しています」
「防衛領域には、『実績のある技術』を重視する思想が根強くあります。最新技術というだけでは普及しません。だからこそ、諸外国での『成功体験』を共有することが不可欠なのです」
――AMが防衛にもたらす価値をどう捉えていますか。
「『改善』と『変革』の両面があると考えています。『改善』は、肉盛り溶接のような手法による既存装備の補修・長寿命化です。一方で『変革』は、従来の加工法では不可能だった複雑な形状を実現し、装備の機能を飛躍的に向上させるイノベーションです。この二面性を丁寧に説明し、既存技術の延長線上にあるという納得と、全く新しい価値の提案を両立させていく必要があります」
――米国での具体的な取り組み事例はありますか。
「オープンソースの情報によれば、本土から離れた遠隔地へ『部品』ではなく『データ』を送り、その場で造形する運用が始まっています。例えば、飛行に直接支障がない部品から着手し、メーカーの保証を取り付けた上で現地生産する体制が整いつつあります」
――海上自衛隊での具体的な運用イメージを教えてください。
「海自は洋上活動が多く、活動領域も拡大しています。本土から部品を届ける物流コストと時間は膨大です。各艦艇や近隣基地にAM装置を設置できれば、母港に戻らずともその場で部品を造形し交換が可能になります。かつて艦船には修理用の工作機械が積まれていましたが、現在はスペアパーツの交換が主流です。AMは、その『洋上修理』の概念を現代的に復活させる可能性を秘めています」
――有事におけるAMの役割についてはどうお考えですか。
「ウクライナの事例が示す通り、設備さえあれば場所を選ばず製造できる点は画期的です。日本においても、生産拠点を分散させることは安全保障上の強みになります。また、かねてからの課題である『部品不足・予備品不足』を解消する一助にもなるでしょう」
■防衛省は変わろうとしている。民間が後押しを
――実装に向けた課題は何でしょうか。
「大きく3点あります。『データの不在』『品質保証の未確立』『体系化の遅れ』です。既存の切削技術で作られた部品と、AMで作られた部品が同一性能を発揮するのか。この検証とオーソライズ(正統性の承認)の仕組み作りが急務です」
「解決策の一つとして、米国のように当初からAM利用を前提とした設計(DfAM)を取り入れることが考えられます。あるいは、通常時は切削・金型などで安価に作り、緊急時はAMで代替できるよう規格化しておく。もちろん防衛省はそうしたものを積極的に採用することで、民間の取り組みを活性化する必要もあるでしょう」
「海兵隊の事例ではシーハリアーの破損したノーズコーンを艦上で応急製作し、『基地帰投までの一時的な使用(ワンタイムユーズ/スペアタイヤ方式)』として運用したケースもあります。緊急時には現場指揮官の判断で柔軟に運用するようなガイドラインの策定が求められます。AMの価値は装置の性能以上に、データを誰が認証し、品質をどう保証するかという『制度設計』にかかっているからです」
――民間企業、特に中小・ベンチャー企業への期待をお聞かせください。
「防衛産業は重厚長大な大企業のイメージが強いですが、AMはそこを変える可能性があります。ウクライナでは『質』が戦力だった時代から、『量、簡易性、民間とのデュアルユース(官民両用)』が強みとなるパラダイムシフトが起きています」
「大企業がハブとなって中小企業の高い技術力をAM活用に繋げていく形が現実的でしょう。防衛省としても、民間からの積極的なアプローチを応援し、優れた視点を持つ技術を積極的に採用する努力が必要です。防衛省は変わろうとしています。だからこそ民間からの働きかけによりその変革を加速したいですね」
――有事の補給路(サプライチェーン)という観点ではいかがですか。
「『データが補給路』になれば、サイバーセキュリティが物理的防御と同等に重要になります。データセンターへの攻撃や、データの改ざんによる『意図的に壊れる部品』の混入など、新しいリスクへの備えが必要です。防衛専用のクローズドな環境と、発展性のある民間データの活用をどう安全に両立させるか。これが次なる大きな課題となるでしょう」
(日本物流新聞2026年4月25日号掲載)