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インタビュー

シャープ Smart Appliances & Solution 事業本部 要素技術開発部 課長 公文 ゆい さん

ラッコの手をヘアブラシに再現

自然界の動植物の構造や行動を手本に製品を作る「生体模倣」。その着想の面白さから話題を集めることも多いが、取り組みの多くが一過性で終わってしまう印象もある。シャープは2008年に「ネイチャーテクノロジー」と銘打って取り組み始めて以降、15年以上にわたって20種以上の動植物の形態を製品に取り込んできた。最新のラッコの手をヘアブラシに再現した取り組みやネイチャーテクノロジーで描く未来について、シャープSmart Appliances & Solutions事業本部要素技術開発部課長の公文ゆいさんに聞いた。

ネイチャーテクノロジーで理に適った開発を

シャープが1024日に発売するプラズマクラスターヘアブラシ「Smoome(スムーミー)」は、ブラシのピン形状に「ラッコの手」を模倣している。同社が2008年から取り組む「ネイチャーテクノロジー」(=生体模倣)の手法を活用し、ラッコの爪や手の平の形状を再現した。

「ネイチャーテクノロジーは『自然には、ムダや無理がない』との考えのもと、自然の摂理に倣った生き方をしている動植物の構造・行動などを手本に、製品に改善を加える手法です」(公文さん、以下同)

スムーミーの参考となったラッコは、地球一とも言われる約8億本もの体毛(人間の頭髪は約10万本)で北太平洋の極寒の海から身を守っている。睡眠と食事以外の時間をグルーミング(毛づくろい)に当てるのも、断熱層となる毛を綺麗に保ち空気を送り込むためだ。

「ラッコにとって生命線である体毛を良好に保つ『手』にはヘアケアに役立つ秘密があると思い調査を始めました。先行研究だけでなくラッコの飼育に携わった経験のある方 などにも話を聞き、ラッコの手はザラザラ・ブツブツ・シワシワを駆使して毛並みを整える機能を持っていると知りました。スムーミーではその構造をピンのパターンで再現しています」 



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ラッコの手をピンに再現したプラズマクラスターヘアブラシ「Smoome

スムーミーには円錐状の太いピンと長短様々な細いピンがある。円錐状の太いピンが爪を再現していて、絡んだ髪を横方向にかき分け隙間を作る。細いピンは手のひらのシワを再現しており、均等ではなく波のように配列することで髪をしっかりと捉えながら髪を上下左右に動かす力を加える。そうすることで、クシ通りをよくし髪へのダメージを軽減する。実際、同社の測定では、2種類のピンを組み合わせて配置することで、一般的なブラシに比べて約75%の力で絡まりをしっかりほどくことができた。

■生体模倣→運動模倣

15年以上の実績を重ねる中で、社内理解も進みつつある。

「立ち上げから10年目くらいの時に当社の家電製品群へのネイチャーテクノロジーの採用が大体一周しました。その頃から、課題があったらネイチャーテクノロジーのチームに相談すれば何かしらヒントをくれるという社内風土ができてきました。実際、生物の構造や行動は理に適ったものが多く、そうしたものからインスピレーションを得ることで、何も取っ掛かりのない状況を打開したり、一足飛びに製品に適した形を見つけたりすることができます。今では、過去にネイチャーテクノロジーに取り組んだ製品をさらにブラッシュアップしたいといった話も出ています」

こうした社内風土の構築には同開発部の心構えも影響している。公文さんは部署の共通認識として「コストをかけずにやる」というものがあるという。

「お金をかけたらいいものができるのは当たり前。基本的には量産を前提に、今社内にあるリソースで作れる形態へと仕上げていくようにしています。時には喧嘩もしますけどね(笑)」

現在、公文さんたちが取り組みを進めるのが「運動模倣」。これまでは、既にある製品に組み込む一部品の最適化に動植物の形態を活用してきた。動植物の運動や行動にまで視野を広げることで、製品の基幹部分である駆動部の見直しを進めたい考えだ。

「現在、家電の駆動源はほぼモーターしかありません。しかし、自然界に回転運動を利用している動物はほとんどいません。モーターは効率もよく安価ですが、回転運動では再現できない柔軟性が自然界にはあります。そうした動きを捉えられれば、製品の形やあり方を変えられる可能性があると見ています」

(日本物流新聞10月10日号掲載)