インタビュー
三明機工 代表取締役社長 久保田 和雄 氏(ロボットSIer協会会長)
- 投稿日時
- 2024/06/27 09:21
- 更新日時
- 2024/06/27 09:37
製造ラインの垂直立上げ導く3Dシミュレーション
タイ、中国に現地法人をもつ三明機工は売上の5割を占める自動車・電機分野のFAから鋳物、アルミダイカスト、液晶用ガラス基板の製造の自動化を担う。3Dシミュレーションを利用した提案でフロントローディングを推し進め、ティーチングの教育ツールまで自社開発する。
――貴社を取り巻くビジネス環境に変化はありますか。
「コロナ前の水準には達していませんが、引合いは増え今年の見通しは昨年よりよいと思います。ただ、決まるまでの足はまだ長いですね。一方で海外は中国もタイも景気は非常に悪く、よくなる兆しも見えていません。タイは軍事政権の影響からか経済が伸びていません」
――ロボットSIer協会の会長のほか、日本ロボット工業会の副会長も長く務めていらっしゃいます。いまの補助金のあり方をどう見ますか。
「ものづくり補助金について経済産業省は今年、カタログ登録型補助金と新規開発設備向けの2つを用意しました。新規開発向けには最高8千万円が補助されますが、その製作期間が実質2、3カ月と非常に短い。大がかりな自動化システムをたった2、3カ月でつくることはまずできません。相当前から案件があって、後から補助金に引っかけるところがあるのかもしれません。カタログ補助金については経産省のロボット政策室は人手不足を中心に考えています。日本ロボット工業会に提示した対象領域は、人手不足が顕著な飲食やサービス業です。そこで必要とされるのは掃除や配膳用のロボットです。この用途で有力なロボットのほとんどは中国製で、日本に勝ち目がありません。そこに補助金を出すということは、モノをつくらず右から左に流すことを奨励するようなものではないでしょうか」
――貴社は鋳造工程周辺の自動化が強いです。
「熔解プラントの周辺装置が強く、具体的には材料供給装置や注湯装置です。最近は鋳造のなかでも後工程の方で、たとえば使用後にカットした湯口を画像を利用して選別する装置にロボットを使うことが増えています」
■カメラやハンドも悪環境仕様に
――熔解プラントとなると高温で過酷な環境です。その難しさはありますか。
「高温環境で動くロボットに対しては耐熱ジャケットを被せればいいのですが、それよりもシステムを構成するカメラやハンドなどの周辺機器も悪環境仕様にしなければなりません」
――受注を得るために取り組まれていることは。
「当社はお客様の要求仕様を3Dでシミュレーションし、目で見える形にして、初期段階に提案しています。これがお客様の決断を早くすることにつながっています。紙やCADだけでは伝わりにくいですから。不具合がないこともあらゆる角度から視覚的に確認できますから、製造ラインの垂直立ち上げができます」
「受注してもいきなり設計に入らずに、3Dでお客様に見せたものをさらに作り込んでいきます。最終的にお客様に見てもらってGoサインが出れば、設計のばらし(平面図面への変換)にかかります。この時点で強度計算やサイクルタイムの検証がすべてできます。そこでデザインレビュー(社内会議)をしてダメ出しをします。そうすることで問題点がどこにあるのかを把握でき改善していくことができます」
――3Dシミュレーションはすべての受注案件で実施されているのですか。
「8割か9割は行っています。リピートオーダーでもまったく同じシステムではないので検証します。お客様の工場をスキャンさせていただき点群データを取得し、その3D工場の中に当社で作ったシミュレーションの装置を障害物の有無も考慮して入れます」
――リアルなモノを使っての検証はしませんか。
「もちろん、お客様から実際のワークをお預かりして自動化装置がうまく扱えるかどうかのリアルな検証は欠かせません。お客様の工場と同じ条件で安全柵もつけて試運転をします。いくら3Dによるシミュレーションが進んでも実機試運転しないことはありません」
――最も大きな課題は。
「中小企業にロボットがなかなか広まりません。その要因はロボットを扱える人材がその中小企業にいないことです。だからロボット人材を育成し、『よしロボットでも1台入れてみようか』という発想をもってもらわなければなりません。また、いくらロボットの性能が良くなってもSIerがいないと装置としてまとまりません。そのSIerも少ないとなればどうしたってロボットは広まりません。私が要求しているのはFS(Feasibility Study=新事業が成立する可能性を事前に調査すること)のための補助金を設けること。引合い以外で事前調査を無償で行えるSIerはおりません。先日訪ねた浜松市はFSのための補助金制度をつくっています。当社のある静岡市にはそんな動きはぜんぜんありませんが」
工場出荷前の片持ちフレームの搬送用天吊りロボット。門形フレームに比べ動作範囲が広く、ロボット1台でより多くの設備に部品搬送できる。
Profile
三明機工株式会社
1978年設立、社員約130人(うちタイ、中国に30人)
静岡市清水区袖師町940
自動化システムを年間約120件納入
タイと中国には現地法人をもち、熔解プラントの自動化が強み。自動車・電機などのFA(売上の約5割)、アルミダイカスト(2割)、鋳造(2割)、液晶パネル製造ライン(1割)—の4つの柱をもつ。ユーザーの工場まで再現した3Dシミュレーションによる提案で、製造ラインの垂直立ち上げを導く。一方でティーチペンダントをつないで産業用ロボットのティーチングがバーチャルで習得できる「デジタルトレーナー」を開発。これに協働ロボットを扱えるバージョンも加えた。
(2024年6月25日号掲載)