1. トップページ
  2. インタビュー
  3. 山本金属製作所 営業企画課 兼 研究開発G 課長 松田 亮 氏

インタビュー

山本金属製作所 営業企画課 兼 研究開発G 課長 松田 亮 氏

投稿日時
2024/07/11 12:55
更新日時
2024/07/11 13:02

クーラント管理をオールインワンで自動化

クーラントの品質は工場環境を左右する。劣化すれば悪臭の元になるうえ手荒れの原因にもなりかねないからだ。工具寿命や加工品質にも悪影響を及ぼすため、精度が命である日本のものづくり現場では厳しく管理する必要がある――のだが、測定や交換の手間を厭い劣化したまま放置される現場が多いのが実情だ。この状況を一変させ得るクーラント管理システム「COOL︱i」を山本金属製作所が上市した。濃度や液温に加え独自の「汚染度」という指標も可視化。データを蓄積すれば今まで見えなかった加工トラブルの原因すら掴めるかもしれない。

生産のパフォーマンス最大化へ

――COOL-iの概要を教えてください。

「水溶性クーラント液のpH、液温、Brix(糖度を指す。濃度)、汚れ具合、室温をモニタリングするシステムです。設置はタンクにホースを差し入れるだけ。100V電源で動きます。装置内部に液を循環させ常に自動で先述の5項目を計測しデータを蓄えます。面倒だったクーラント液の管理を一手に担えます」

――開発の狙いは。

「端的に言えば生産のパフォーマンスを最大限発揮するため。クーラント管理はその鍵を握る重要なファクターです。どの企業も管理はしているはずですがルールが形骸化しやすいのも事実。pHや液温を測らず『昨日と同じだろう』と適当に記録する現場がザラにあります。我々は約240台の工作機械を保有し切削加工を研究しています。クーラントの状態次第で品質は一変し、工具寿命も悪化することが明らかになっています。ならば管理の面倒さを解消し人は付加価値の高い仕事に回そうというのが原点でした。我々の現場でこれだけ課題感があれば確実に他の企業もお困りだという確信もありました」

――クーラント管理で大変な項目は。

「基本的にはハンディ測定器で液温やpH、Brixなど様々な項目を測る必要があります。工数がかかりますし液は酸性・アルカリ性どちらでも手荒れの原因に。またBrix計は人がレンズを覗き込み『境界線』が位置する目盛りを読みますが、クーラントが汚れるほど線がぼやけ見えづらくなります。そうなればなんとなくの数値を記録する他ありません。液が劣化すると悪臭の元になるのでいわゆる3K作業です。私もお盆休みを挟んで工場に入るとかなり強めに鼻が刺激された経験が。アンモニア系というか、なかなかにパンチが強いです」

――導入メリットを詳しく教えてください。

「Brix計は目盛りを目視で確認するので計測結果が人の感覚頼り。COOL-iならバラつきをなくせます。クーラントのデータを残せるのでトレーサビリティも向上します。製品を加工したクーラント液の状態を紐づけて管理できるわけです。航空機部品など規格の厳しい部品ではこうした管理が必要。またこれは将来的な意味合いですが、クーラントのデータを有効活用し加工のレベルを引き上げられる可能性があります」

――クーラントのデータを有効活用する、とは。

「従来は朝に1回、良くても1日に2回定点観測するだけでその間のデータがごっそり抜け落ちていました。完成品の品質や工具寿命は細部までデータを残すのにクーラントの情報がなかったわけです。しかし実験を重ねた我々の経験上、クーラントの劣化は確実に品質や工具寿命を悪化させます。冷却性能は精度に直結し潤滑性が落ちると面粗さも低下する。これまで原因がつかめなかった不良の原因がクーラントだったと判明するかもしれません」

――工具の折損や加工不良とクーラントの相関性が具体的には見えていない現場が多いと。

「仰る通りで、しかも現場はあまり『クーラントのせい』にしたがらない。不良時には工具やプログラムを真っ先に疑い、様々な要因を調べ尽くした後にようやくクーラントを疑います。加工においてクーラントは非常に重要。データを残せば幅広い活用が見込めます。ましてや今後は人が減る一方です。熟練工は加工室のべたつきで『この油の具合ならOK』と判断できても新人は難しい。この勘とコツが失われた時、生産性は大きく下落します。今のうちにデータを蓄積し判断材料を増やす必要があります」

■研削のクーラント管理にも

――液温やpHに加え「汚染度」も測れるとのことですが、独自の指標ですか。

「液中に屈折率を変化させる物質がどれだけあるか、つまり異物の混入度合いを数値化した我々独自の評価軸です。この指標が加わることできめ細かな管理が可能になり、何より劣化度合いがわかりやすくなると考えています」

――どういうロジックで測る。

「原理は非常に単純でアナログのBrix計を使います。Brix値を表す目盛りの『境界線』は液が綺麗なほどクッキリ、汚いほどぼんやりする。つまりぼやけ具合を数値化すれば汚れ具合が判断できると考えました。具体的には画像解析でBrix計の目盛りの明るさの情報(輝度プロファイル)を抜き取り、微分して変化量を導くなど数学的処理を行っています(特許出願済み)」

――類似品は市場にありますか。

「瓜二つのシステムは知る限りなく、似た設備はあっても大半が海外製。日本はどちらかと言えば計測システムよりクーラントのろ過装置が充実しています。COOL-iはろ過したクーラントの状態を数値化できるのでそれらの装置と相性が良い。双方を導入するのが現場にとってベストです」

――多くの加工現場に刺さりそうです。

「そう願っていますし、引き合いや納入実績も増えています。DMG森精機が認定する周辺機器『DMQP』にも選ばれました。航空機部品をはじめ切削を手がけるあらゆる現場に刺さると思いますが、切削以上にクーラントの影響がシビアな研削加工にも向くはずです。今後も機能面は随時アップデートします。人材不足を解消する手段として役立ててほしいです」

0710山本金属写真2.jpg

スタイリッシュな見た目にもこだわったCOOL-i



(2024年7月10日号掲載)