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インタビュー

山本金属製作所 営業企画課 兼 研究開発G課長 松田 亮 氏(工学博士)

投稿日時
2024/05/23 17:29
更新日時
2024/08/19 13:17

ツールホルダにセンサー、FSWを「見える化」

山本金属製作所のMULTI INTELLIGENCE(MI)は切削加工の「見える化」を目的に開発された温度・振動・力をワイヤレスでモニタリングできるツールホルダタイプのIoTデバイスだ。これまでは「この音はまずいぞ」「切りくずが変だ」などベテラン職人の研ぎ澄まされた感覚により工具異常や温度上昇を見極めていた。MIが加工現象を数値化することで人手不足、ベテラン不足の解消に繋がるという。このMIを活用し、汎用のマシニングセンタでFSW(摩擦攪拌接合)の最適生産を実現する。同社営業企画課兼研究開発G課長で工学博士の松田亮氏に話を聞いた。

MULTI INTELLIGENCE(左)とFSWによるサンプル(右)を手にする松田亮課長。

――MIの開発経緯は。

「自社生産の切削加工の見える化に取り組むべく開発を行い、加工中何が起きているのか計測し、経験と勘でやっていた仕事を数値化。定量的に誰でも判断できるようにしていきました。切削は工具が回って加工します。FSWも回って接合することから応用できるのでは、という気づきがありました」

――右から左に転用できた。

FSWは熱のコントロールが重要になります。切削加工時の温度も計っていましたので、まずそこを転用しました。とくに新たな技術開発も必要なかったので、『ちょうどよかった』のです。温度が見えるソリューションがまずヒット。現在はツール側へかかっている曲げ、推力、トルクなどの負荷もモニタリングできるようになりました」

■経験や勘ない加工、IoTの出番

――モニタリング出来ることでどんなメリットが。

「温度がわからない状態で接合するというのは暗闇の中に手を突っ込むようなものです。温度が高すぎれば、バリが発生して欠陥だらけになります。温度が低いと材料が軟化せず、ツールに負荷がかかり最悪、折れてしまいます。適切な温度を知ることが重要ですが、これまで試行錯誤の末、蓄積した経験やノウハウに頼って条件を決めていることが多かったと思います」

――切削加工よりFSWのほうが、導入ハードルが低いのでは。

「切削加工は経験や勘の蓄積がすでに十二分にあり、会社ごとに差別化のため独自進化したノウハウも多くあります。職人さんもたくさんおられます。IoTデバイスで『見える化』しましょう、と言ったとき『ウチには必要ないよ』と直感的に思われるユーザーも多いです。FSW自体は昔からの技術ではありますが普及はこれから。多くのユーザーにとって初めてやるものです。これから試行錯誤でノウハウを蓄積する段階です。IoTデバイスの提案を受け入れていただきやすい土壌があります」

(2024年5月15日号掲載)