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けんかっ早いけど人が好き Vol.99 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)

投稿日時
2025/06/25 09:31
更新日時
2025/06/25 09:53

汚名返上

私が黒い手を持つことは、以前、お伝えしたとおりである。緑の手は、植物をみずみずしく育てることができるが、黒い手は次々と枯らす。私の黒い手は、からっからに乾いた大地で育つはずのローズマリーをわずか一か月で枯らしたほど真っ黒な手なのである。しかし、枯らしたあの日から20年。髪だって白髪が出てくるお年頃、黒い手だって多少灰色になったのではないか。そして、私のなかにむくむくと、リベンジしたいという思いが高まってきた。

新芽はここから伸びたとわかるほど、ぐんぐん成長。

なんたって、ローズマリーの香りが好きなのである。フライパンで鶏やジャガイモを焼いたときにローズマリーを放り込めば、とんでもなく美味しくなるのだ。まさにミラクル、魔法の香り、手抜きの友! ところが、近所の店で売っているのは瓶に入った乾燥タイプ。これでは香りがぜんぜん違う。やはり生の枝に限る。しかし、価格が高い。それに遠くまで買いに行かなくてはならない。家に鉢植えごとあったら、どんなにいいだろう。

もう一度、鉢植えを買うかどうか迷っていた昨秋、友人が小さな鉢のローズマリーを手渡してきた。

「迷っていないで、やれば?」

そうだ。「迷う前に動け」は、私の信条ではなかったか。

かくしてリベンジがはじまった。ローズマリーは水をやりすぎてはいけないとあるため、一週間放置してみる。が、気づくと三週間経っていた(こういうところが黒い手)。心なしか、いや、間違いなく葉先が枯れ始めている! あわてて園芸店に行くと、店のお姉さんは鉢の選び方からなにから、それはそれは丁寧に教えてくれた。っていうか、ローズマリーは雑草じゃないのか? こんなにたくさんやることがあるなんてと文句をたれている場合ではない。 

かくしてベランダに置いたローズマリーは冬を迎え、葉先の枯れた部分がさらに増えたような、いや、もちなおしたような、という日々を繰り返し、そして春になった。植物は正直だ。暖かくなったとたん、やわらかな新芽を伸ばし始めたのである。もらったときには十センチ程度だったローズマリーは3倍近くになり、いくらでも料理に使えるようになったではないか。

ミラクル万歳! これで私も黒い手、返上である。

(日本物流新聞2025年6月25日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)