連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.94 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/04/10 09:16
- 更新日時
- 2025/04/10 09:19
中学生の春
春である。あちこちで花が咲き始め、歩くときに肩に入っていた力も抜けていく。春はいい。なんだか新しいことが始まる予感がして新しい自分に成長できそうな気がする。と、毎年同じことを言っているような気がする。相変わらず気持ちだけは前のめりなくせに進歩のない私である。

ChatGPTに作ってもらった図。なんかちょっと違う……。
ただ、子どもたちは違う。毎年毎年、確実に成長していく。背は伸び、英語力を磨き、最近は、ダンスもうまくなるらしい(授業にある)。そんなことを思いながら駅からの帰り道を歩いていると、中学生男子三人組が住宅街の四つ角にたむろして、声をひそめて話をしているではないか。なんだなんだ、恋バナか?
好奇心大爆発の私は顔をあさっての方向にやり、目だけをぎゅっと動かして見ると一人が説明し、ほかの二人が熱心に聞き入っているようだ。表情はかなり真剣。なんの話だろう。ああ、そばに言って聞きたい。そっと後ろにまわりこみたい。しかし、そんなことをしたら明らかに不審者だ。どうしよう。足元を見ると、横断歩道があるではないか。ふだんはつい、ナナメ横断をしてしまう(内緒です!)私も、思わずここは、彼らの近くに行ける横断歩道のペイントにそってまっすぐに進むことにした。そのときだ。大きな声がした。
「えーっ!」
話を聞いていた一人が、口に手を当て目を丸くしている。もう一人も、そんなことはできないと手をひらひらと横にふっている。なに、なにーっ? こうなると、おばさん、耳に全集中である。そして、聞こえてきたのは。
「だから。思い切り泡立てて、泡だけを使うんだって」
はい? えっとそれは?
「手のひらじゃないの?」
「ちがう。泡だけで洗うの」
もしかして、洗顔の話?
私が中学生のころは、がっしがっしと手で洗っていたが今は、泡でふんわりと肌をいたわるように洗いましょうというのが当たり前なのだ(私は未だしていないけれど)。ただそれは、女子中学生や若い女性の話だと思っていた。しかし今や男性も化粧で身なりを整える時代。それはすでに男子中学生にまで波及していたのか。
いいぞ、中坊。どうかきれいなイケメン男子になって、ぜひ、街中を彩ってくれ。
(日本物流新聞2025年4月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)