連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.78
- 投稿日時
- 2024/08/08 09:43
- 更新日時
- 2024/08/08 09:49
火災報知器
購入して10年。大音量で鳴るので、作動確認がしづらい。
オリンピックの誘惑に負けずにパソコンに向かって原稿を書いている。締め切りを守る自分の使命感の強さに惚れ惚れする、というよりも、私のまわりはネタであふれていると言った方がいいかもしれない。今回も「火」ネタである。ここ数カ月、我が家では黒煙事件が立て続けに起こっている。カレー鍋を焦がし、トースターは火を吹いた(吹いてはいない。でも、熱波は吹いたかも)。火の元、電気の元には注意しようと気をひきしめていたところだ。
我が家は、早めに晩御飯を食べる。その日も17時前から2階にあるキッチンで、湯をわかすヤカンと、米を炊く鍋と、ハヤシライスを煮込むフライパンがコンロに乗っていた。そう、我が家には炊飯器がなく、ガスコンロで炊いているのである。この時間帯、キッチン脇の大きな窓から西日をがっつり受け、エアコンをつけていても汗だくだ。そして、さあできた、食べようとハヤシライスにスプーンをさしたその時だ。空気を切り裂く警報音が鳴り始めた。
ピューイッ、ピューイッ!
緊急地震速報か? いや、違う。音はスマホのある場所とは違う方角から聞こえているのだ。そのうち、機械的に作られた女性の声がした。
「別の部屋で、火災です」
火災!
キッチンを見る。火は上がっていない。私は反射的に階段を駆け下りた。考えられるのは、電子機器がタコ足配線になっている一階のパソコン部屋しかない。ついに起こったか、トラッキング現象! 扉を開ける。果たして机の上のデスクトップは、ちんまりと画面を映し出していた。もちろん火はない。焦げ臭い匂いもない。どういうこと? ふたたび2階にもどる。やはりキッチンも異常なしだ。何の気なしに、火災報知器が取り付けられている天井付近に手を伸ばして見た。すると。
あっつ‼ 西日+3つのコンロのフル稼働で、キッチンの天井付近はとんでもない温度になっていたのである。このせいか! でも、なぜ「別の部屋」と言ったのだろう?
誤作動なのか本当に熱を感知したのか、真相はわからない。ただ、火災報知器を買って10年、ボケ始めてもおかしくない。これはそろそろ新品に買いかえろというお告げなのかもしれない。
(2024年8月10日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)