連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.73
- 投稿日時
- 2024/05/24 14:15
- 更新日時
- 2024/05/24 14:20
おばあちゃんのコゴミ
今回は、前回の「私の米作り@魚沼」のスピンオフ物語である。主役は、おばあちゃんだ。
おばあちゃんとは、米農家の小岩さんのお母さん。ご主人を病気で早くに亡くされ、今は小岩さん家族と暮らしている。10年近く前に取材していたころはまだまだお元気で、播種や田んぼ作りにも参加していたけれど、今は卒業して自然のなかでの自己研鑽の日々である。
自己研鑽。そう、ご高齢になってなお、本を読み、人と会話し、日々、自分を高める姿に私はいたく感動し、毎年、おばあちゃんの部屋にこもっては「お言葉」をいただいているのだ。まず、おばあちゃんは愚痴を言わない。少なくとも私は、一回も聞いたことがない。息子の頑張りを褒めることはもちろん、同居しているお嫁さんへの賞賛がすごい。いっしょに暮していたら気に入らないことのひとつやふたつあるでしょうに、お嫁さんへの感謝の気持ちがオーラのように駄々洩れなのだ。
花が咲く季節や、山菜が出てくる季節をありがたいといい、実りの秋も、雪深い魚沼の冬もありがたいという。近くに図書館があるとありがたいし、そこに行くためのバスが朝晩、数本あることもありがたいのだ。私なら、数本じゃ少ない、もっと増やせと愚痴りながらあばれることだろう。おばあちゃんに会うたびに年齢を重ねたらかくありたし!と滝に打たれる思いである。
そして、おばあちゃんは草木にも詳しい。チューリップとひまわりくらいしか知らない私に、これは○○、あれは○○(すでに私は覚えちゃいない。)と、教えてくれる。
今年も私が播種をしているあいだに山に行き私へのお土産にと、たくさんの山菜をつんできてくれた。アサツキ、ヨモギ、フキノトウ、アケビのつる、そして、「あっ、これ、ゼンマイでしょ! 以前、灰汁の抜きかたを教えてくれたやつだ!」と言ったら、「違う、コゴミ」と、にっこり笑って教えてくれた。「コゴミは灰汁抜きをしなくて食べられるよ」なのだそうだ。本当にいろんなことを知っている。
もらった山菜を天ぷらや甘辛煮ではなく、パスタにしちゃう私がなんだかなだけど、でも、しっかり春の香りが鼻を抜けていく。おばあちゃん、二百歳くらいまで生きてほしいな。
(2024年5月25日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)