連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.100 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/07/10 15:19
- 更新日時
- 2025/07/10 15:24
暑熱馴化

熱中症対策で筋肉を増やすなら、ボディビルダー飯に限る。
大変なことになった。真夏に開催される野外ライブのチケットを当ててしまったのである。いくら推しが好きでも、夏フェスだけは参戦するまいと決めていた。気温30度超えのなかでの3時間飛んだり跳ねたりは、どう考えたって熱中症まっしぐらだ。しかし昨年、ことごとくチケットが当たらなかった私は(チケットは抽選)、推しへの愛が拒絶された気分になり打ちのめされていた。次こそ、次のライブこそ! そうめらめらと燃えたぎっていたときに発表された野外ライブ。すかさず争奪戦に参戦し、見事、当選したのである。やったー! いや、やったーじゃない。どうするんだ。暑いぞ。
一気に不安に襲われる。生きて帰れるのか。いや、生きて帰るだけじゃだめだ。最後のアンコールのその瞬間まで推しをこの目に焼き付け、声援を送り続けなければ。
熱地獄で最後まで飛び跳ねるためには、対策が必要だ。私は紙に書きだしてみた。帽子、サングラス、日焼け止め、今流行のハンディファンにネッククーラー。冷え冷えタオルに、霧吹きもあるとよさそうだ。小さなクーラーボックスに凍らせたペットボトルも持っていこう。4本くらい? 当然、塩分補給のタブレットとゼリー飲料も。当日が雨なら折りたたみ傘と雨カッパとビニール袋と、着替えのTシャツに乾いたタオル、えっとそれから……と考えたところで、一気に準備疲れがしてきた。これを全部ってどれだけの量なのよ。登山のときにあれもこれもと荷物を増やし、師匠に「荷物が重いと登頂できません」と叱られた記憶がよみがえる。たしかに、これではライブが始まる前に体力使い果たしそうだ。
ええい。私は腹をくくった。雨が降ったら濡れておけばいい。うちわがあれば日傘とハンディファンを兼ねられる。帽子とサングラスはいるけれど、日焼け止めは家を出るときにぬればそれでいっか。というわけで、荷物を最小限にして気力と体力の限界に挑戦することにした。もちろん、やめるという選択肢などあろうはずがない。推しは推せるときに推せ。なんたって今が一番、若いのだ。このあとは暑熱馴化をして熱中症対策である。
9月、私の連載コラム部分が白いページになっていたら、事情をお察しくださいませ!

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)