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イノカ、生態圏を水槽内に再現

投稿日時
2024/11/13 09:47
更新日時
2024/11/13 09:50

サンゴにやさしい日焼け止め開発も

Innovateとaquariumからなるイノカ(innoqua)は日本で有数のサンゴ飼育技術を持つアクアリスト(自宅の水槽アクアリウムであらゆる水生生物を飼育することを趣味とする人々)と、東京大学でAIを研究していたエンジニアが2019年に創業したベンチャー企業だ。取締役に関西大学の研究者を迎え、同大学を研究拠点に2023年に関西大学初のベンチャーの認定を受けた。

真冬に水槽内でのサンゴ産卵に成功した

同社の技術の根幹は、任意の生態圏を水槽内に再現する『環境移送技術』となる。「ドラえもんの秘密道具の『切り取りナイフとフォーク』になぞらえて説明している」(竹内四季COO)とする。

水族館などは、サンゴが展示物のメインになることが少なかったり、海の近くに立地している場合も多く海水をそのまま活用できる。また研究者や研究機関はサンゴの「飼育」を主テーマにすることが少ない。こうしたエアポケットのような状態で、個人が趣味でやっている市民科学の技術が、専門機関より先行している場合がある。

同社の増田直記チーフ・アクアリウム・オフィサー(最高アクアリウム責任者)は宇都宮の自宅に巨大サンゴ礁生態系水槽を所有する生粋のアクアリスト。この技術やノウハウをAIIoTの力で定量評価して、再現性を高めた。天然の海水を使わず水道水から生成できる人工海水を使うので、高い再現性と安定した環境の維持ができるのも強みだ。

こうした水槽内にリアルな生態系を再現できる強みを活かし、臨海部をはじめとするフィールドに行かずとも様々な水環境の研究を可能にする研究事業、そして海の面白さや重要性を伝える教育事業を展開する。

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竹内四季COO

同社が大きく注目を集めたのは22216日、人工的にサンゴ礁の海を再現した閉鎖系水槽(東京虎ノ門)でサンゴ(種目:エダコモンサンゴ)の産卵に成功したことだ。季節をずらしたサンゴ礁生態圏で生態系を再現することにより、日本では通常、年に16月にしか産卵しないサンゴを真冬に産卵させることができた。

■海の多様性を企業価値へ、日本の勝ち筋か

「こうした研究の活用事例としてわかりやすいのが資生堂との共同研究で、『サンゴにやさしい日焼け止めクリーム』の開発だ」(竹内氏、以下同)とし、環境負荷低減の調査研究は10年以上前から行われていたが、それを評価する実験システムがなかった。服の繊維から選択時に流出するマイクロプラスチックなどの影響評価も視野に入る。

ほかにも、スラグを活用したサンゴの着生基質の開発や JFEスチールとスラグを活用したサンゴの白化抑制実験なども進めている。 

遺伝資源を含む海洋生物多様性の価値を持続可能にすることを目的として、227月には国内ベンチャー企業としては初の事例となる「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)」の「TNFDデータカタリスト」に参画する。

「海の多様性を守るブルーエコノミーという概念はあるがまだまだ社会実装されていない。先進企業と共に定着させていきたい」と夢は大きい。「現在、脱炭素の排出が会計基準に取り込まれ投資の参考にされている。今後、海の多様性に関する開示義務も一般化していく。今は生物の多様性への企業のコミットに物差しがない。これをつくっていきたい」とする。

海に関しては、日本に優位性がある。日本周辺の海域は全体の09%だが海洋生物では15%ほどが集まる生物多様性を誇る。ヨーロッパはその意味では多様性が少ない。「海のルールは、海の先進国アジア圏から提案してほしいという機運が高まっており、日本の数少ない勝ち筋だ」と力強い。

(日本物流新聞1110日号掲載)