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ソニーセミコンダクタソリューションズ、センシング領域を深耕

画像センシング技術を「面」で活用

デジタルカメラやスマホカメラのレンズ直下に設置されるイメージセンサーは、人の眼の「網膜」に当たる。網膜が受容した光を電気信号化し脳に送るのに対し、イメージセンサーも受容した光を電気信号化し後段の処理デバイスへと送る。

10円玉と比較したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」

現在、眼の前の光景を正確に残すために磨かれたこの技術が、ADAS(先進運動支援システム)や自動運転領域の進展、工場・物流などのDX化の流れの中であらゆる産業分野で利用が拡大しつつある。イメージセンサーの世界金額シェア5割と他を圧倒するソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)も新たなセンシング領域を開拓する。

「眼が見た映像を美しく残すというイメージング(鑑賞)領域に対し、センシング(認識)領域は撮像から情報やデータを取得するもの。デジタル化の進展やAI技術の進化によって、眼となるイメージセンサーがより幅広いところで求められるようになっている」

同社システムソリューション事業部ビジネス部統括課長の田邊陽子氏はそう話す。一方で、「一般的に画像センシング技術は、高精細な画像データをAIで処理するクラウドに送り続ける必要があり、そのためのデータ送信・処理に高い消費電力やコストのかかる技術として認識されている」と普及を阻害してきた要因を語る。

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システムソリューション事業部 ビジネス部 統括課長 田邊陽子氏。手に持つデバイスがIMX500搭載のカメラ(無線タイプ)

そこで、SSS20年に商品化したのがインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」。イメージセンサーの中にAI処理機能を持ったロジックチップ を一体型として載せることで、究極にエッジな環境でAI処理可能なイメージセンサーだ。

「通常の画像を得るためのイメージセンサーは温度や加速度などを測るIoTセンサーと比べるとデータサイズが約10億倍にもなる。IMX500はイメージセンサーの中でAI処理を施すことで、チップから吐き出されるデータサイズを7400分の1に抑えた。出てくるのは意味情報であるメタデータなため、AI活用で課題となっているプライバシーやセキュリティー問題の解消にもつながる」

■画像センサーを『面』で

データコストや消費電力などの課題はあるものの、イメージセンサーが産業領域で使われてこなかったかというとそうではない。これまでにもイメージセンサーが搭載された産業用カメラが様々な分野で活用され、その高度化に貢献し続けてきた。しかし、田邊氏はその活用領域をもっと広げることができるとみる。

SSS21年に提供を始めた「AITRIOS(アイトリオス)」は、IMX500を搭載したカメラをベースとしたエッジAIセンシングプラットフォーム。「これまで点としてしか使えなかった画像センシング技術を、IoTセンサーのように『面』で使うことができるようにしたい」とイメージセンサーの可能性を探る。

AITRIOSはセンシング用途向けのイメージセンサー搭載のカメラとクラウド上での開発に必要なツール・トレーニング・環境などを備えたサービスからなる。取得したデータを適切に処理できるAI技術者の不足も普及阻害の要因のため、できるだけ誰でも簡単に使用できる環境を提供している」

画像センシング技術を使用して高効率なソリューション開発が行える環境を整えることで、田邊氏は「例えば生産工程のモニタリングなど画像センシング技術で比較的容易に自動化できるとされながら、コストなどで見合うシステムのなかった部分は、AITRIOSを『面』的に配置することで置き換えていきたい」という。

今年に入り、7月にはローカルネットワーク環境で使用できるAI学習ツール「Local Studio」の提供を始め、9月末にはグローバルで活用が広がるシングルボードコンピューター「Raspberry Pi」に対応したIMX500搭載カメラを販売するなど、手に取りやすい、始めてみやすいサービス提供を進める。こうしたファンづくりがAITRIOSの「面」での活用を加速させていきそうだ。

(日本物流新聞1010日号掲載)