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たまゆら、琵琶湖の原風景のヨシをファッションに再利用

ヨシ収穫でカーボンオフセットも

万葉集に詠まれ、古くから琵琶湖の原風景であるヨシの大群落。葦簀(よしず)やかやぶき屋根に使われ、昔から人々の生活を支えてきた重要な資源でもあったヨシは、近代化により産業的利用が衰退した。小魚や野鳥の棲み処として、また水質保全の役割を担ってきたヨシの群生は、放置されれば景観や水質悪化の原因となってしまう。作業服やユニフォーム販売を手がけるたまゆら(大阪府枚方市)の岡本哲社長は、ヨシを原材料とした生地を次世代ファッションの新トレンドとして新たな息吹を吹き込もうとする。

ヨシを原材料とした生地で作製したシャツは、独特の光沢感と通気性の高さが特長

育成過程でCO2を閉じ込める性質があるヨシは、収穫することでカーボンオフセットに繋がる。刈り取ったヨシの繊維を取り出し撚糸し、織り込んで生地にすれば、自然の恵みをムダにすることなく脱炭素にも貢献できる。

昨年12月に、ヨシの群生地として知られる滋賀・高島市で「びわこ高島の葦を守る会」と連携し、170人のボランティアと共にヨシ刈りイベントを開催。「その時に固定化したCO23.27㌧。普通自動車の東京大阪間15往復分に相当する」(同社)と説明する。また、ヨシ刈りをイベント化し楽しめる「祭り」にすることが持続可能性をより高めると言う。「大きな自然相手ですから、当社だけでは限界があります。色んな方と手を組むことが大切です」と周りを巻き込みSDGs実現を目指す。

特産品の『高島ちぢみ』など古くから織物産業が根付いている高島市。「収穫したヨシをすぐに機織り機で織り上げ、染色まで行える。地域経済の循環にも繋がります」と地場産業の強さも活用する。

ヨシ生地の風合いについては「ほとんど性質は麻と同じ。通気性がいい」(岡本社長)。ポリエステル65%、ヨシ35%の生地によるシャツは軽い雰囲気をまといながらも、かちっとしすぎず、かといってラフでもない。「独特の光沢とちょうどいいコシがある」と言うように、生地としてのポテンシャルの高さにも期待がかかる。シャツは生成りと黒の2カラー、スニーカーもラインナップする。



たまゆら様_岡本哲社長.jpg

岡本哲代表取締役社長

同社のオンラインショップでは売れ行きも好調で、すでに在庫はわずか。「もとより試験販売でしたのでこれから量産ステージへ移るところ」と次のステップに向けて準備を進めている。

■万博採用や著名デザイナーのラインに

「ヨシを生地にするというアイデアは昔からあったが、ロット単位が何千㍍となるため経済的な課題がありました。我々はプラットフォームの整備や、課題解消に一つずつ丁寧に取り組みました」と創業から約60年間で培ってきた経験と知見を注いだ。

そしてそのヨシの生地を用いた帽子が、来年開催する大阪・関西万博の運営スタッフ着用ユニフォームとして使われることに。万博終了後は同社の回収サービスにより、軍手や建築資材に変わり再循環する。

そしてもう一つ大きな展開も迎えた。日本を代表するデザイナーのコシノジュンコ氏がヨシ生地の将来性に関心を寄せ、自身のブランドのメンズスーツラインで採用した。岡本社長は「スーツに合う生地や、ヨシの特性に合わせたテスト開発を重ねていく。ヨシの生地をもっと広く活用してもらいたい」とさらなるヨシのポテンシャル深耕に意欲を見せる。

キャップ_右前.jpg

大阪・関西万博スタッフの着用ユニフォームとしてヨシの生地を用いた帽子が採用される

(2024年8月25日号掲載)