1. トップページ
  2. 連載
  3. 国内初、風況観測サイトが青森に

連載

国内初、風況観測サイトが青森に

洋上風力の普及加速へ

再エネの主力電源化に向けた切り札とされる洋上風力。とりわけ遠浅の海が少ない日本では、風車を海に浮かべる浮体式の普及が洋上風力全体の浮沈を左右しそうだ。ただし洋上風力発電の事業費は一般に2000億~3000億円規模と莫大で、だからこそ風がしっかりと吹く適所を見極めて風車を建てるという原則が重要になる。しかしそれには今までハードルがあった。洋上における風況観測機器の確からしさを検証する公的な試験サイトが、国内に存在しなかったのだ。

試験サイトには気象マストやリモートセンシング機器を設置する架台がある

この状況に今年、ピリオドが打たれた。青森県六ヶ所村に、洋上の風を観測する機器の精度を本番前に事前検証する「むつ小川原洋上風況観測試験サイト」が開設されたのだ。同様の施設は国内初。風車の設置に先立ち精度の担保された観測機器で風況を測れるようになり、洋上風力発電の普及加速に弾みがつくと期待される。

従来、風車の採算性や設計条件を判断するための風の観測には鉄塔(気象マスト)で直接観測する手法が用いられる。しかし洋上風力が対象とする沖合に鉄塔を建てるのは費用面で難しく、風車も大型化していることから、レーザー光を照射し間接的に風況を測る安価なリモートセンシング手法が広がりつつある。しかしこれに用いられるスキャニングライダーやフローティングライダーは洋上向けに開発された新たな技術で、事前の精度検証が推奨される。これまでは各事業者が独自に試験を行うしかなかったが、今後は試験サイトを用いてより手軽に事前検証が可能になる。

■海外の利用者も

同試験サイトはNEDOと神戸大学、(一財)日本気象協会、風況調査ベンチャーのレラテックが2023年にかけて整備したもの。このたび新たに(一社)むつ小川原海洋気象観測センター(MOC)が設立され、今後の管理・運営を担う。MOCの小林英一代表理事(神戸大学名誉教授)は「洋上風力事業で最も重要なのは風。その場所で風は吹くのか、日本の広い海域でどこが適地なのかを絞り込んでから(事業を)やっていくことが大事になる。風を測るためには機械が必要だが、本当に正しい値を示しているかを検証して持って行って初めてそこの風速はいくらだと言い切れる。その信頼性は20年、30年にわたる事業性を評価するうえで極めて重要」と設立の意義を語る。

同サイトには気象マストが設置され、利用者はリモートセンシング機器を持ち込んで気象マストのデータと比べることで機器の精度を検証できる。2~8基のリモートセンシング機器が設置できるエリアが複数あり、洋上に設置するタイプの観測機器も最大6基まで置ける。すでに昨年度の試験運用で海外事業者も含めた16件の利用があり、今後も十数件の利用が立て続くという。

MOCの小長谷瑞木理事(レラテック代表)は「まだまだゴールではなくスタートだと感じている。風力発電業界のみならず、様々な研究分野での活用や地域貢献も視野に入れている。海外の利用者も増えており、海外から注目されるような試験サイトにしたい」と力を込めた。
02.jpg

冬には積雪があるむつ小川原洋上風況観測試験サイト。その気候を生かし、寒冷地における各種機器の性能評価など多角的な検証・開発へも活用する考えだ

(2024年8月25日号掲載)