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テクノフロント、使い捨てカイロで水質改善

金型技術でキューブ化

「使い捨てカイロ」はその名が示すように、日本国内で年間約17億枚「使い捨て」されている。これまでリサイクルされてこなかったカイロの「粉」を活用し水質改善に取り組んでいる企業がある。

使い捨てカイロは鉄が空気に触れて錆びることで発熱する。この鉄が水と反応してイオン溶出体となって二価鉄イオンが長期的に安定供給されるのが水質改善のキーポイントになる。二価鉄イオンが水中のリン酸と反応してリン酸鉄となり高濃度のリン酸蓄積を抑制する。他方、悪臭の原因となる硫化水素とも反応して硫化鉄に変化し、リン酸鉄と硫化鉄が水中に蓄積するヘドロと反応し無害化・低悪臭化される。ヘドロが無害化されることでCOD(有機物による水質汚染の指数)が改善し、水中の光合成が活発化され、生態系にも好影響を与える。東京海洋大学の佐々木剛教授の実証実験ではCODが100から13に低下した。

Techno clean cube

Techno clean cube」と名付けられた水質改善剤の製造販売に挑むのが、金型用鋼材の販売、TECプレートの製造販売のほか6面フライス、6面研磨、ナノ超鏡面ミガキ(TECミラー)などの加工や精密部品の受注製作を行う、当紙では「Rの時代」ではなく「挑む!加工現場」に登場しそうな東大阪のモノづくり企業「テクノフロント」である。

社長 tec__797.jpg

長尾吉訓社長

「粉のままだと舞い散ってしまったり、水の流れで流され、水中に沈んでいかない。そこで当社のプレス技術でキューブ状にすることで投入を可能にした」(清水謙吾営業部次長)という。水質改善の仕組みは古くから研究されていたが、カイロの回収の困難さもあり事業化しようとする企業はなかった。

■遺志を引き継ぎ開発を継続

東京海洋大学の佐々木教授の研究に出会い、個人としてリサイクル事業に取り組んでいた山下崇氏とテクノフロントの長尾吉訓社長が出会い、同社の敷地を無償で提供することになった。さらに京都の機械メーカー「大伸機工」がプレス機を提供し事業化に向けて動き出していた。

プレス機 DSC_3534.jpg

大伸機工から提供されたプレス機。事業として軌道に乗せるにはいかに自動化するかが課題という

しかし、道半ばで山下氏が急病で帰らぬ人となってしまった。長尾社長は本業とはかけ離れた事業であったが、その遺志を引き継ぎ世に出すことを決意する。長尾社長は「Techno clean cubeは地球を救う力を持った商品で可能性は無限大である。水質汚染に悩む場所は日本だけでなく世界中にも無数にある。大阪・関西万博をきっかけに世界中に同製品の素晴らしさをアピールしたい」と語る。

突然畑違いの事業を担うことになった清水次長だが「cubeはプレス金型で作っているが、当社は金型用の鋼材を加工販売しており技術とノウハウの蓄積がある。開発の大きな助けになった」と話す。ロータリープレスで加工するが、カイロの粉は非常に固まりにくい。加圧が弱すぎるとバラバラになり、高すぎると焦げたように固まって水中で分解されなくなる。「圧力を微妙に変えながら製造し、水につけて融解するかを試すテストを繰り返した」とし、遺志を引き継いで一年、商品化にこぎつけた。販売先を確保し、事業として軌道に乗せるのが清水次長の次の仕事となる。

銀行からゴルフ場の池からボールを回収し販売する業者を紹介されコラボレーション。「ゴルフクラブ四条畷」での投入実験を開始した。「ゴルフ場の池は水の入れ替わりが少なく悪臭が気になる。またちょうどいい大きさだ」とする。ゴルフクラブ四条畷で成果が上がれば横展開していく考えだ。

「使い捨てカイロの袋を切って取り出し、固まっている場合も多いので揺動させてほぐし、粉砕しブレンドしプレスする。袋を切るというもっとも面倒な工程を含め、人手でやっている部分を自動化していかないと採算が合わない」とも話す。また安定した回収方法にも目途がついておらず課題は山積しているが大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンでの展示も予定され、可能性は世界に広がっている。

2024725日号掲載)