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Eサーモジェンテック『携帯の父』が挑む異端の熱電発電
- 投稿日時
- 2023/12/22 13:24
- 更新日時
- 2023/12/22 13:28
工場の排熱管が電源になる時代へ
排熱さえあれば場所を選ばず発電できる未来が、刻々と近づいている。旗を振るのは京都の技術ベンチャー・Eサーモジェンテックだ。南部修太郎会長は「誰も言ってくれないので携帯電話の父を自称しています」と冗談めかして言うが、実のところ携帯電話にガリウムヒ素半導体を導入して消費電力を激減させ、小型化に導いた功績者でもある。パナソニックで長年、半導体デバイス研究に従事。56歳で独立した南部氏は苦心しつつ3つの企業を立ち上げたが、うち1社、Eサーモジェンテックがいま、熱電発電における台風の目として大いに注目を集めている。
熱電発電は熱電素子と呼ばれる半導体で熱を電力に直接変換する技術。原理は古くから知られるが、発電効率が低く実用化に至らないのが実情だった。例えば排熱パイプで発電する場合、従来の硬いセラミック基板を使った発電モジュールは排熱源に密着できず熱回収効率が低い。とはいえモジュールの耐熱温度は2013年当時150℃程度で、高温の排熱源を対象とするのも難しい、と痛し痒しだったわけだ。
取締役会長 南部 修太郎 氏
だが南部氏は工場排熱の大半を占める300℃以下の低温排熱に着目。世界初の実用的なコスト性能比をもつ、ぐにゃぐにゃと曲がる熱電発電モジュール「フレキーナ」を開発した。 「13年当時、半導体をフレキシブルなフィルムに実装するのは当たり前で、それを排熱パイプに巻けばはるかに発電効率が高まると思いました」と南部氏は述懐する。「モジュールの耐熱温度を最大250℃まで引き上げる最先端の研究の存在も知っていました。それを転用できれば面白いと考えたわけです」
当時、熱電発電の研究は600~800℃の高温排熱を対象にするのが主流。低温排熱を狙うアプローチは異端だったが、南部氏には「そもそも300℃以上の高温排熱は水蒸気の力でタービンを回すなど活用されており、問題は捨てざるを得ない低温排熱だ」という確信もあった。
フレキーナは排熱パイプにピタリと密着可能。量産実績があり発電効率が高いBiTe系チップを熱電素子に使い、低温排熱でも「平気で㌔ワット級の発電ができる」という。モジュールはすでに完成済み。「向こう2年で量産に向けた詰めを行う」と社会実装も近づく。
■IoTの自立電源にも
現状、フレキーナ搭載省エネ用熱電発電ユニットの投資回収期間は10年。だが南部氏はその先も見ている。「半導体は量産で必ずコストが下がる。例えば元々600円だったあるチップは3年で200円に、さらに量産の進んだ時には100円以下になりました。ムダに捨てられている低温排熱は莫大で、すなわちフレキーナ搭載省エネ用熱電発電ユニットの市場も莫大なので今後量産による大幅なコストダウンが見込めます。今は費用対効果を考えできる限り高温の排熱を対象にしていますが、今後はそれ以下の温度の排熱でも運用が進むでしょう。自立分散型の、災害に強い電力供給システムの実現が近づきます」
同社は熱電発電モジュールを省エネ以外にIoT用自立電源としても提案する。工場ではIoTのために膨大な無線センサ類が必要だが、電池交換や電気工事に工数を割けるほど現場に余裕はない。そこで排熱さえあれば発電できる自立電源モジュールのサンプル販売を開始したのだ。
フレキーナによる様々な独自熱電発電技術は地球環境に、IoT用自立電源モジュールは現場の人手不足にそれぞれ貢献できる。「新規事業開発事業は単なる金儲けでなく、新たな価値や雇用の創出に重きを置くべき」。そう語る南部氏の目には力がこもっていた。
(2023年12月25日号掲載)