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扉の先93/石巻アパラタス、食品業界の難題を続々解決
- 投稿日時
- 2025/04/25 13:01
- 更新日時
- 2025/04/25 13:08
不定形ワークを捌き切る「不屈のチカラ」
石巻アパラタスの「アパラタス」とはラテン語で装置や機器を意味する。2020年に社名変更をする以前の屋号は「石巻水産鉄工」。その名の通り、祖業は漁船をはじめとした船舶の艤装や修理、水産加工場の設備を手掛けてきた。

ホタテのウロ取り加工の自動化装置
しかし1977年の200海里規制に伴い、日本国内における漁獲量は激減。これが転機となり、同社は食品加工における自動化をオーダーメイドで請け負うスタイルへと変化。その実力が認められ、大手食肉加工メーカーから白羽の矢が立った。
「当時の当社にはかなり難易度が高いものでしたが、社長は『無理』とか『出来ない』とは決して言わず、創意工夫してチャレンジするタイプの人間でしたので、なんとかメーカー様の求めるものをお納めできたのではないでしょうか。それがきっかけとなり、他の仕事もいただけるようになりました」(菅原康裕専務)
だが順調に成長曲線を描いていく中、未曽有の災禍に見舞われる。石巻も最大8.6mという巨大津波に襲われた。被災時を菅原専務が述懐する。
「当時の会社は海沿いにあり、社長と従業員は上階に避難したことでなんとか一命をとりとめましたが、会社は無茶苦茶になってしまいました」
被害の大きかった岩手、宮城、福島では、震災直後から2020年までに休廃業・解散した企業は1万4千件以上にも上る。だが、同社が挫けることは無かった。
「自動化を手掛けていた食肉加工メーカー様の工場も震災の影響で、様々な設備の不具合が出てしまい、震災から1週間後には修理に向かっていました。加工工場に行くと、修理するだけではなく『流通が止まっているから持って行って』とたくさんの加工品を持たせていただきました。避難所は物資が不足していましたので、皆さんにお分けするとすごく喜んでくれましたね」(菅原専務)
■人を活かす自動化事例も
近年、食品加工現場の人手不足にはますます拍車がかかっている。だが、その自動化におけるボトルネックとなっているのが、「不定形なモノ」のハンドリング。様々な色やカタチ、重量のワークを的確に判別し、次工程に持っていくのは至難の技だ。
それでも「無理」とは言わない同社の姿勢は、社長から専務へ連綿と受け継がれている。それが「ホタテのウロ取り」の自動化だ。ホタテにはウロ(中腸線)と呼ばれる部位があり、必ず外して調理するが、その工程はどうしても人手に頼らざるを得なかった。
「加工現場では一日50万粒のホタテを加工しており、なんとかして自動化に漕ぎつけたいと取り組みましたが、難易度がとにかく高い。産地Aのホタテは上手くいっても、産地Bのホタテだと失敗してしまう。海の栄養分やホタテの生育状況、収穫した季節によって色や形が微妙に変わってしまうからです」(菅原専務)
試行錯誤を繰り返した結果、行き着いたのはAIによる画像処理とディープラーニングの導入。これにより精度は大幅に向上した。だが、「まだまだ改良の余地はあります」と菅原専務はさらなる改良に意欲を燃やす。
このほかにもウニの殻剥き加工装置、鶏肉パックの開封及び搬送の自動化、正月用鏡餅のデコレーション包装の自動化などを実現。「他社で断られた案件ばかりウチに来る」と菅原専務は苦笑いする。
一方で、「当社が自動化ラインを作ったことで、人手不足を解消できただけではなく、かんたんになった後工程を障害のある方に任せられるようになったケースもあり、多様なカタチで社会貢献できているのではないかと思います」と胸を張る。
また昨今では、食品関連だけではなく、鉄道をはじめとしたインフラ設備の自動化やマテハン関連の仕事も手掛けている。
菅原専務は「形や重さがまちまちのワークを扱ってきた経験が、決まった形のモノの自動化にも活きており、お客様に大変喜んで頂いています。食品関係の仕事は大変なことも多いですが、『鍛えられた』という点で感謝しています」と笑顔で語ってくれた。
菅原康裕専務
(日本物流新聞2025年4月25日号掲載)