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扉の先88/クマリフト、低価格な垂直移動が自動化の切札に

投稿日時
2024/11/13 09:51
更新日時
2024/11/13 09:55

AMRがエレベーターに乗る時代へ

国土の狭い日本では家だけでなく工場も「縦」に伸ばさざるを得ない。ただ多層階化した工場は各階で工程が分断され、自動化が難しいのも事実だ。AMR(自律走行搬送ロボット)とエレベーターが連携できれば、この課題の解決が見通せる。小荷物専用エレベーターで国内首位のクマリフトは様々なAMRメーカーと実証を重ね、AMRがエレベーターに乗る光景を「あたり前」にしようと挑む。

取材日もAMRとエレベーターの連携試験が行われていた。デンマーク製のAMR「MiR」がエレベーターに乗り込む。MiR代理店の大喜産業は「AMRとエレベーターの連携はかなり要望が多い。MiRは高性能で価格も安くないが、だからこそエレベーター連携が重要な付加価値になる」と語った

AMRAGVと違い磁気テープ等の誘導体が不要だ。柔軟な運用が叶うため急速に普及が進むが、逆に誘導体がないため鉄の箱であるエレベーターとの連携は苦手だった。エレベーター内は電波が不安定で通信が途絶しAMRは自己位置を見失いやすい。またタクトを考慮すれば階をまたぐ数十秒の間にフロアマップを切り替えねばならず、電波が不安定な中でこの重いジョブをこなせるかはAMRの性能次第だ。

エレベーター側も本来AMRが乗るとは想定しておらず、制御的な改造は必須。段差の乗り越えなどハード面の注意事項も多く、機種ごとに緻密な検証が必要だ。結果として「AMRとの連携は面倒で敬遠されがちだった」とクマリフトの阪野雄彦部長は振り返る。ただAMRAGVのように複数階で使いたい現場が増えるのは、FAの知見を持つ阪野氏の目には必然と映った。「ウチはお客様志向。要望に応えたい」と腹をくくり、競合に先んじて新分野に飛び込んだ。

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セーフティサポート事業部 阪野雄彦部長

実際に連携させると課題は山盛りだった。通信に制御、そもそも車輪が小さいと段差に嵌まる問題もある。阪野氏は大手FAメーカー出身。通信規格やPLCラダー構築の知見も活かし、課題を1つずつ潰していった。対応が難しいAMRもあるが、約10社との検証で連携できる機種が増え、システム構築のツボも掴んだ。実際に同社のエレベーターとAMRが連携する現場が各地に誕生している。

■中小自動化の味方に

クマリフトは小荷物専用エレベーターを60年超展開し「おそらく数十万台」(阪野部長)が国内の様々な施設で稼働する。「キタやミナミの繁華街では230㍍おきに設置されている」ほど広く普及しているそうだ。これを潜在顧客と捉えれば、AMRとの連携は底知れぬ可能性を秘める。今まで自動化の枠外にいたエレベーターが一躍、人手不足対策の鍵に躍り出るかもしれない。

同社の小型エレベーターは価格競争力が高く、積載500㌔なら400万円以下で導入できる(仕様により変動)ため人用エレベーターの代わりに中小企業にも多く普及する。AMRも足元では100万円台の機種が登場し、連携できれば500万円台の投資で複数階層の自動化が叶う。カフェで珈琲をロボットが2階へ運ぶなどサービス用途も視野に入るだろう。ちなみに同社のエレベーターは食品搬送にも使われ、表面張力で縁まで水で満たされたコップもこぼさず運べるそうだ。

「国内には我々のエレベーターを長年使う中小事業者が沢山いる。その方々が必死で行っている搬送を楽にしたいし依頼を断らずにやりたい」と阪野氏は意気込む。一連の取り組みは3年前に始め、この1年で特にAMRメーカーの問い合わせが急増した。AMRがサッとエレベーターに乗り込む日常を期待したい。

(日本物流新聞1110日号掲載)