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扉の先61/不定形な食材でも柔軟対応
- 投稿日時
- 2021/12/27 13:48
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
アールティ、盛り付けできるAI協働ロボ
無造作に積まれた唐揚げを一つひとつ器用につかんで、トレイに盛り付ける。形は不揃い、色味も微妙に違う。それでも見分けて判断するところがアールティ製協働ロボット「Foodly」の魅力だ。
AIロボットビジョンが判別できる食材は2020年11月時点で10種類以上。食品業界で実証試験を重ねていることから考えて、その対象範囲は日を追うごとに広がっていると言っていい。
事前に食材や容器を学習させれば、動作教示するエンジニアがいなくても、ティーチングレスで使える。現場でやることは、モニタで判別したいモノを選択してスタートボタンを押すだけ。弁当工場のように、おかずの種類、盛り付けの順番や位置が頻繁に変わる場合でも柔軟に対応できる。
食品業界で自動化が進まない理由は、つかむモノが不定形なうえ、頻繁に段取り替えが必要な点にある。
アールティの中川友紀子社長は、「食品業界の多品種小ロットは想像を絶するほど。20分に1回の頻度で段取り替えするケースも珍しくない。ハンドやプログラムの変更に数分かかるぐらいなら人がやった方が早いと思われがちだった」と話す。
多品種小ロットに対応するため、完全な自動化が難しく、加工ラインの多くは人海戦術を前提に設計されている。ロボットを設置しようにも、スペースは限られている。そこで安全柵の必要がなく、配置転換が比較的容易な協働ロボットに着目。強みとするビジョンセンサとAIの技術を組み合わせた。
21年はキャベツの千切りのような「量モノ」の盛り付けに挑戦したり、他社製の食品加工装置との連動ができたりするものの、中川社長は完全な自動化を志向していないようだ。
「現代の技術で100%の自動化はできない。コストがかかるうえに、システムインテグレータにとっても段取りやメンテナンスの負担が大きい。そもそも食品業界は人が介在できる程度の余地を残して自動化することを好む傾向にあるし、安全、衛生面にも配慮する必要がある」
■動作検証からコンサルまで
アールティは、工程にあわせた動作検証からAI学習、設置まですべて対応する。さらに20年11月から新たな試みとして、中食向けの人材派遣で豊富な実績があるウィルオブ・ワークと連携。Foodlyと操作に熟知したスタッフを同時に派遣する取り組みを開始した。
中川社長は、「エンジニアがいなくてもロボットを提供できるサービス。ラインを丸ごと委託する業界特有の方法に『人とロボットのハイブリット派遣』が合うだろう」と期待を寄せる。
Foodlyは、顔の一つに過ぎない。ビジョンセンサ、多関節ロボットの開発も手がける。デジタルデータ活用からエンジニア育成まで、中長期的な設備投資にかかわるコンサルティングも展開する。
「部分的な改善では解決できないからだ。仕組みから変えていかなければ。そのためには10年先を見すえたコンセプトづくりが重要になる。結果だけでなく、過程が分かって修正できる人材を育てる必要もある」
自動化の推進にあたって、ロボットが働きやすい環境整備(ロボットフレンドリー)の啓蒙にも力を入れている。
(2021年12月25日号掲載)