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扉の先100/和歌山アイコム、独自の生産方式で和歌山から世界へ
- 投稿日時
- 2025/09/10 13:38
- 更新日時
- 2025/09/10 13:42
無線機大手、ロボットで組立自働化
山の斜面に並ぶ石垣積のみかん畑を遠目に車を走らせる。日本一のみかんの生産量を誇る和歌山の有田地域に、世界トップクラスの無線機メーカー・アイコムの製品を製造する和歌山アイコムの有田工場がある。業務用無線機器、アマチュア無線機からネットワーク機器、海上用無線機や航空無線機など、月に120機種数を有田工場と紀の川工場(紀の川市)ですべて生産している。加えて無線機は顧客ごとの仕様に応えることも多く、まさに少量多品種の製造現場。

組立のロボットライン。右のハンドリングロボットで材料をピックアップし、基板とシャーシのねじ締めを行う双腕ロボット(手前・奥2台)に渡す。
田中誠一郎社長は、「IPS(アイコム・プロダクション・システム)という独自の生産方式を採用している。生産ラインに負荷をかけ問題を抽出し改善と標準化を繰り返し、品質と生産性を上げてきた。少量多品種にはセル方式を融合したインライン・セル・ストップ方式で、タイムリーな生産体制を築いている」と話す。25年前に導入したAGVで、複数階と連携し材料や完成品の搬送など効率化も進める。
自動化に力を入れるのは将来の労働力確保のため。2016年にハンドリングロボットを導入し、無線機のパワーや感度を試験する調整検査を自働化。検査機8台ごとに人が必要だったが、ロボット導入後には3台に減り、24時間無人で行えるように。18年にイヤホン端子やマイク端子を基板に挿入するロボットを導入。はんだ付けや基板の分割もロボットによる基板組立ラインを構築した。19年には、生産量が多い特定小電力トランシーバーと月1万台以上出る海外向けの業務用無線機の組立ラインに、ロボット2台と双腕ロボットを導入。抽斗に材料を供給すれば一日供給無しで稼働し、基板とシャーシのねじ締めや組み立てを完全自働化した。
「無線機にフロント部分をドッキングする作業は人の手でも難しく防水性能を左右する。ロボット導入後はバラつきがなくなった」と品質の安定にも寄与した。
■自前のものづくり力で自働化推進
「ロボットのティーチングはロボットメーカー、はんだ付けや検査工程のティーチングは我々、と補いながら辛苦を共にして自働化ラインを構築した」と田中社長は話す。
ハンドヘルド型の無線機は小径ねじで0番ビットを使うが、それをロボットで締結するのが難しい。「ビットの角度がシビア。0.1ミリの違いでカムアウトしてなめてしまう」。カメラを付け一日中観察し「ぴったりのビットではなくねじがぽんと落ちる程の余地がないといい角度に入らない」と発見。「5ミリほどの薄いねじも上手く回らなかったが、まず180度逆回転させてから回すとねじ山を誘い、うまく行く」と気づいた。ねじとビットの篏合の大きなハードルを乗り越えた。
蓄えた自動化ノウハウを今後は少量多品種にも組み込む。「コンベアラインにねじ締め・はんだ付けロボットを導入し、間に人が入り少量多品種に対応する『ネクストIPS』を今進めている」
世界トップを争う無線機メーカーとして、独自の生産方式を活かす自働化は必須。「他にもラインを洗い出して、何が自働化できるか見つけたい」と意欲を示す。
ロボット組立ラインで生産される業務用無線機を手にする田中誠一郎社長(右)と山下恵司工場長
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)