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イボキンが国内初、風車ブレードを100%リサイクル

風力発電の「出口」確保へ道筋

風力発電の黎明期に全国で建設された風車が、約20年の寿命を迎えつつある。FITの終了で多くは撤去されるが問題はブレードの行方だ。主材料はリサイクルの難しいGFRP(ガラス繊維強化樹脂)で、1MW級で1枚約5㌧という巨大さも相まりほぼすべてが埋められる。(一社)日本風力発電協会によると2023年に国内で撤去された風車は72基だが、年々数が増えるうえ近年の物ほど巨大に。リサイクル方法を確立せねば、遠くない未来に風車の撤去がままならなくなる。

風車のブレードは現地で重機を使って荒破砕後、イボキンの工場で中間加工処理される

この課題に解体やリサイクル事業を行うイボキン(兵庫県たつの市)が道筋をつけた。プラント設備の解体に強い同社は累計100基近くの風車の解体実績を持つ。そこで風車の輸送・据付・メンテナンス・解体を手がけるアチハや太平洋セメントと協業。解体したブレードをイボキンが細かく破砕し太平洋セメントグループのセメント工場に持ち込み、熱源やセメント原料として国内初の100%リサイクルに成功したのだ。

「ブレードは年代やメーカーで成分が大きく違う」とイボキンの松原大佑常務執行役員は語る。主材料は先述のGFRPだが、木やウレタンなど様々なものが含まれるうえレシピは企業秘密でブラックボックス化しているそうだ。これがブレードの再利用を妨げるが、太平洋セメントはイボキンとアチハが解体した様々な風車の組成分布を調べ、セメントとしての活用に向けた最適なカロリー調整、原料としての成分調整を導いた。

GFRP製風車ブレードは処理に手間がかかる厄介者で、粉塵による健康被害の懸念から受け入れを拒む中間処理施設も多い。風車は風況の良い北海道や東北に偏在し「埋め立て地と風車の分布が必ずしも一致しない」(松原氏)のも課題だ。つまり現状でもブレードは行き場を失いがちで、廃棄が増える今後はより状況の悪化が見込まれる。「実証でセメント工場という出口を確立すれば中間処理業者も安心して引き取れるのでは」松原氏はそう期待する。

■超巨大な洋上風車

現状、イボキンが撤去する陸上風車は多くが発電容量1~2MWでブレード1枚あたり約5㌧。しかし洋上風力の規模はその比ではない。同社は福島県沖で22年まで行われた浮体式洋上風力発電設備の解体も担ったが「風車は5~7MW級。5MWのブレードが22㌧、7MW34㌧」(松原氏)とまさに桁違いだった。同社専務執行役員の山﨑喜博氏も「国は洋上風力を再エネ主力電源化の切り札にする方針。これから新設する風車の廃棄は30~40年後ですが、サーキュラーエコノミーの道筋を今から作るのが重要。その時が来てしまえばあっという間です」と取り組みの意義を語る。

今回、3社の実証でブレードをセメントの原料にする道が拓けた。しかし「単にブレードを破砕しセメント工場に出せばよいわけではない」と松原氏は釘を刺す。「ブレードにはGFRP以外の物質も含まれる。トレーサビリティが重要です。また破砕時に粉塵抑制剤を散布し、セメント工場でのガラス繊維の飛散による健康被害を防いでいます」。今は埋め立て処理よりリサイクルの方がコストが高いが「日本全体の課題解決につながれば」と松原氏は前を向く。当面は実績を重ね手法の確立を急ぐ考えだ。

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左からイボキン取締役専務執行役員の山﨑喜博氏と常務執行役員の松原大佑氏。メイン事業は解体工事・金属リサイクル・産廃処理。これを1社で担うのは業界でも珍しい

2024625日号掲載)