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不二新製作所、1φ以下の深穴を穿つ若き技能集団

機械・工具・油すべてオリジナル 

一般に直径の10倍超の長さの穴をあける加工を深穴加工という(JISでは同4倍超を深穴と定義)。だが不二新製作所は独自のガンドリルマシンで、直径10㍉の穴を長さ1000㍉、つまり直径の100倍まで深くまっすぐにあけてしまう。量産では直径1㍉、最小で同0・5㍉の深穴に対応する、国内でも稀な離れ業。「細穴は国内で1、2を争うレベル」(五十嵐健人マネージャー)と自負するこの技術は、どのように生まれたのだろうか。

五十嵐健人マネージャー。オーダーメイドのガンドリルマシンを前に

[ガンドリル・BTA加工および旋削、マシニング加工] 大阪市平野区

同社の創業は1969年。細穴・深穴をあけるガンドリル加工やBTA加工が強みで、元は大手数社の仕事を請けていたが、乙間英司社長の就任に伴い技術を磨き顧客を開拓する方針へ転換した。今は2300社の顧客から深穴・細穴加工の依頼を受け、複合旋盤とマシニングセンタで周辺加工も行う。ハステロイやニッケル合金、スーパーインバーなど難削材の依頼も多く、手に負えない案件が同業者から持ち込まれることも。だが当初から今の技術があったわけではなかった。

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直径1.7㍉の深穴が100個以上ワークを貫通している。最小で直径0.5㍉、量産では同1㍉までの深穴加工に対応する

17年前は(穴径)4㍉が最小。今は1㍉の深穴を普通にあけられますが、加工を始めた当初はある仕事で工具を50本折ったことも」(乙間社長)。そもそもガンドリルは銃身に穴をあける武器製造技術がルーツで、秘匿性が高く旋削やフライスのようには情報が出回らない。既製のガンドリルマシンでは直径3㍉程度の穴が加工の限界で、それ以下の径は同業もほぼ加工できないため情報交換もできず、手探りで知見を得る必要がある。そうでなくとも直径3㍉を下回る深穴加工は径が05㍉細くなるだけで難易度が別物に。そこで同社は加工データを徹底して蓄積し、活用した。これが奏功し、今は未知の材料もデータから類推し高い再現性で加工する。

ハードも壁を越える鍵になった。「金属加工は機械・工具・油の掛け算で品質が決まる」と五十嵐マネージャーは言う。この考えでガンドリルマシンはフルオーダー、工具も直径1㍉から0.1刻みでセミオーダー品を揃え、切削油も独自配合した。穴が細く深いほど工具は曲がりやすくなり機械のパワーも必要だが、既製のガンドリルマシンはこの点に限界があった。独自のマシンで既製品では難しい加工条件を叶え、精度や真直度を向上。「国内で五指に入る」ほど豊富な工具で顧客の要望に細かく応えている。

■若手も難加工

加工現場を悩ませる高齢化と技術伝承の課題。これがもとで会社をたたむ例も多いが、不二新製作所は平均年齢34歳。加工現場に限れば28歳と若さが突出する。本来難しいはずの深穴・細穴加工で若手が活躍できる理由は先述の加工データベースがあるからだが、実は加工機にも秘密がある。

「ガンドリルマシンを若手が扱いやすい仕様にしています」(五十嵐マネージャー)。プログラムは不要、座標入力で加工が行える「スマホ的な操作感」だ。芯出しなど段取りも容易で、同社では未経験者も1週間で即戦力として加工をこなす。若手の流入を促さなければ「深穴加工の駆け込み寺」の地位も存続できないとの考えからだ。

かくして同社では今日も若手が難削材を相手に細く深い穴加工に挑む。今後は「穴で困れば不二新」という認知を広めたい考えだ。

(2024年9月25日号掲載)