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ジダイノベーター Vol.31/SIRC (サーク) 

投稿日時
2025/03/21 17:45
更新日時
2025/03/21 17:47

15秒で始める脱炭素
設備の消費電力、後付けセンサーで可視化 

たった15秒を数える間に脱炭素の一歩が踏み出せる。15秒というのはSIRCの「IoT電力センサユニット」設置にかかる時間だ。電源配線の上から2カ所をクランプすれば完了。取り付けた設備のより正確な消費電力がわかる。商品をリリースして約2年で導入に至った企業数は250社を超え、普及ペースは「初年度の販売台数と比較してさらに倍以上に伸びた」と髙橋真理子社長は明かす。社内評価を終えた企業が本格導入や横展開に踏み切っている。中国電力は同センサーを使った省エネ診断サービスを始めた。

IoT電力センサをケーブルラックに後付けした例。電池交換は3年に1度

ヒットの理由は何か。髙橋社長は「手軽さ」を挙げる。「後から手軽に取り付け、データは無線で吸い上げられる。従来の電力メーターとまったく違うコンセプトが有効だった」

一般的な接触式の電力計は設置に工事が必要で、これが脱炭素のために設備ごとの消費電力を把握したい企業の枷になっていた。電力消費が激しいのはどの生産ラインで、その要因は設備AなのかBなのかはたまたZなのか。わからない限り適切な省エネはできない。IoT電力センサには、辻本浩章大阪市立大学名誉教授による磁性薄膜の研究成果である、電力・電流などを計測する5㍉角の微小チップ「SIRCデバイス」を仕込んだ。非接触で計測できるため工事が不要で、力率も加味した正確な消費電力を導き無線で出力できる。

取得したデータはクラウドに集約し、グラフィカルに可視化できる。データ活用に明るい大企業ならこれで十分、自社の省エネを進められるが中小企業は専門人材がおらず難しいかもしれない。そこで取得したデータからどこに削減ポイントがあるかを提示するソフトウェア開発を急いでいる。同社以外のセンサーで取得したデータも集約し、一緒に解析できるようにするためのプラットフォームも開発中だ。

■ルワンダの水問題に挑む

同社の技術が海を越えルワンダの社会課題を解決しようとしている。同国の首都・キガリ市では給水停止が常態化し、約35%の住民が週1~3回しか給水を受けられない。無収水(漏水や盗水によって収益化できない水)が多く、検針も不正確で設備投資に回す資金が不足していることが主な理由だ。 水を汲み上げるポンプの消費電力も重く、ルワンダ水衛生公社の維持メンテナンス費用の約半分が電気代に消える。前職でアフリカを渡り歩いた髙橋社長は「SIRCのセンサーで何とかできるのでは」と考えた。

電力センサーを活用し、電力のムダもなくし無収水問題の解決を図るための調査をJICAの支援事業で進めている。「技術を持つ国と成長のために技術が必要な国がWin-Winになれる持続可能な事業があるはず。無収水はルワンダに限った話ではない。うまくいけば他国にも展開したい」

「マーケットは地球規模だと思う」。髙橋社長はそう展望し「今はまだその入り口」と付け加えた。創業10年を迎え、同社のセンサーは社会のニーズと噛み合い世界に浸透しはじめている。

じだいのベーター02SIRC髙橋社長.jpg

髙橋真理子社長。手元にあるのがIoT電力センサユニットとIoT角度センサユニット

 

(日本物流新聞2025325日号掲載)