1. トップページ
  2. 連載
  3. ジダイノベーター Vol.26/IoTカメラとAI解析で巡回点検リモート化

連載

ジダイノベーター Vol.26/IoTカメラとAI解析で巡回点検リモート化

LiLz、3年間充電不要の防爆タイプも

目視による巡回点検が根強く残る保全の現場。環境による制約や属人性からの脱却が困難など、省力化が進まない現状に光明を灯すのが、バッテリー駆動、LTEネットワーク内蔵により電源・ネットワーク工事不要の完全無線型サーモグラフィIoTカメラと防爆IoTカメラ。「世界初」、「業界初」の機能を備えた巡回点検業務用カメラを開発したのは沖縄・宜野湾市発のベンチャー「LiLz(リルズ)」(大西敬吾CEO)だ。

独自の低消費電力IoTカメラは、3年間充電がいらず13回の撮影ができる(撮影頻度は変更可能)。軽量かつ小型で、屋外や暗所などあらゆる場所に容易に取付けられる。

AIを活用した「LiLz Gauge(リルズゲージ)」により定点カメラで撮影した現場のアナログメーター情報をデジタル化し、デバイス上で点検。取り付けたその日から目視巡回点検を省力化し、移動コストや高所、暗所における点検リスクを減らせる。製鉄や石油化学などの大規模プラントを中心として幅広く導入が進んでいる。

サーモグラフィIoTカメラ「LC-T10」は間欠撮影による表面温度監視によりベルトコンベアの軸受けや、自家発電設備などの異常発熱による発火予兆を検知する。9月に発売した「LC-EX10」は、可燃性ガスや粉塵などの爆発性の高い環境である防爆エリアで使う特殊仕様のクラス最小のカメラ。石油化学など大規模プラントでの需要を見込む。

JIDAINO02.jpg

防爆IoTカメラ「LC―EX10

既存の防爆カメラの多くに採用されている「耐圧構造」カメラではなく、回路設計から防爆仕様として開発する「本質安全防爆構造」のため、軽量化と共に可燃性ガス、粉塵いずれの爆発性雰囲気にも対応できる。

撮影画像をリルズゲージにアップロードすると、アナログメーターなどの画像からAIが自動でデジタル化し、異常値を示せばアラートが発報。円型や7セグ型など様々な計器に対応する。とりわけ配慮したのはユーザー体験(UX)と言う。撮影した画像が歪んでいても、補正が簡単で操作もシンプル。「当社は機器もソフトもどちらも手掛ける珍しいスタートアップ。ハードとソフトの融合による洗練されたUXを実現できるのが大きな強みで、やりたかったことでもある。現場で働く人に対するリスペクトを『使いやすさ』で表した」と語る。

■動き出すグローバル展開

すでに海外展開も前進中。「米国とタイでは代理店が決まっており、販売を開始した。豪州とサウジアラビアでも話が進んでいる」。欧米やAPAC中心に全12カ国+1地域への進出を目指すが、優先度が高いのは北米。「当社のサービスは人件費が高く国土面積が大きい国に最も刺さる」と大きな市場を狙う。

アグレッシブに海外展開を目指す理由を聞くと、「やらない理由がありますか」と返ってきた。「ユーザーの絶対数が増えますし、満を持してからでは好機を逃す。最初から進出を想定して社内カルチャーも醸成しておかないと、外国籍メンバー参画が難しくなる。当社は役員含め18人いますが現在外国籍は4人。グローバルで戦うためには本当は3分の1程度の外国籍比率を維持したいです」

今後の事業課題は「クラウドだけでなく、ハードウェアも扱う企業としてどのようにスピードを出していくか。海外展開には製品認証などの壁がありそこが肝」と言う。

また、同社は沖縄では珍しいスタートアップ企業だが、人材採用に地の利があるという。「創業メンバーには世界トップレベルのアカデミアOIST(沖縄科学技術大学院大学)やAI研究が盛んな琉球大学出身もいて、ユニークで優秀な人材が集まりやすい土壌がある」。中途採用の社員は各地からリモート勤務しているが、全社イベントでは沖縄に集結。「採用時にレクリエーション的にも魅力のある沖縄はメリットです」と大西CEOはほがらかに笑う。

JIDAINO01.jpg

大西敬吾CEO

2024925日号掲載)