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ジダイノベーター Vol.25/既存材料で製品ポテンシャルを向上

ネイチャーアーキテクツ、「カタチ」の設計でモノづくりを革新

素材の構造や配置を適切に設計し、素材単体では実現できない機能性を付与するメタマテリアル。それを活用した独自の設計技術でモノづくりに新たな風を吹き込んでいるネイチャーアーキテクツ。

同社は東京大学発のスタートアップ。メタマテリアルの研究・開発に取り組んでいた大嶋泰介CEOを中心に、デザインエンジニアリング研究を行っていた谷道鼓太郎CTO、折紙工学の研究を行っていた須藤海CROで創業。以来、自動車から建築、家電、造船、航空宇宙など幅広い領域の製品設計を支援している。

素材そのものに機能性を持たせる設計を行っている

「日本の製造業はこれまで世界をリードするモノづくりを積み重ねてきました。しかし、この積み重ねを一旦忘れて、物理的に何が正しく、あるべき姿なのかというところに立ち戻った上で、最適な設計を提供できるのが当社の強みです」(須藤CRO

例えば空調機器の場合、室外機の音や振動の抑制という課題がある。これを防振材や吸音材を使わず、振動源となっているコンプレッサーやモーターの設計から見直し、構成している部品の配置や形状の変更で振動そのものを抑制するというのが同社の考え方だ。

「モノづくりにおいて設計は、品質や性能を決める重要なファクターでありながら、多くの製造業では人材不足や、学術的な知見の活かし方が分からない、分業体制により部署間の連携が希薄といった問題を抱えており、新たな発想や最適な設計が生まれにくくなっています。こうした現場に対し、当社はメタマテリアル研究による素材や構造のカタチに関するデータと独自の設計技術で新たな製品の設計や開発をサポートしています。具体的には部品点数の削減・軽量化だけでなく、変形や振動、熱や音といった物理現象の影響を抑える素材設計を提供し、製品性能の向上を実現しています」

■複雑設計も短期間で実現

一般的に製品開発は細部を煮詰めるほど、スピード感を失っていく。だが、同社には自動車や重工業、家電メーカーから機械工学、さらには一級建築士まで様々なバックグラウンドを持ったスペシャリストが参画している。これが設計のベースとなるメタマテリアル開発の土台を広く厚くし、新たな設計イノベーションの創出とスピードの向上に繋げている。

「当社では製品に求められる機能や特性を実現する上で、あるべき構造体のカタチとはなんなのか、ということをゼロベースで考え直して設計できます。また多様な人材がいるので、業種の垣根を超えた新たな設計を提案することも可能です。検証すべき要件のシミュレーションは自社のプラットフォーム上で行えるので、通常では1週間かかっていた検証を1時間で行うことも可能です」

同社の設計における総合力は、EV開発の現場でも実証されている。EVが内燃機関車並みの走行距離を確保するためには大容量のバッテリーが必要とされる一方で、車重の増加が大きな問題となる。そのため部品の小型化や軽量化、剛性や衝突安全性能の確保など難問が山積している。

「現在のEV開発は、複雑な要件が詰め込まれていて、どのようにアプローチしていくかが重要になります。特に安全性を担保する衝突解析は非常に時間がかかり、一朝一夕には設計できません。当社では様々な素材や部品を同時進行で検証しながら、目標とする性能を実現する形状を突き詰めていきます。それを実際にシミュレーションし、問題点をフィードバックし最適化するサイクルを構築していますので、設計スピードも非常に早いと自負しています」

同社の設計技術は、自動車のみならず、あらゆるモノづくりにおいて活用可能で、かつ革新的な変化をもたらす可能性を秘めている。

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須藤海CRO

(2024年8月25日号掲載)