連載
ジダイノベーター Vol.23/速さも精度も1台で担う国産3Dプリンター
- 投稿日時
- 2024/05/17 08:56
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
Abelia、廃プラの3D造形サービスも脚光
マシニングセンタのように荒加工と微細加工でツールを使い分けるFFF方式の樹脂3Dプリンター。中価格帯の業務機では「国内初」という自動ツールチェンジ機能を備えた「Senju SV-04」(以下Senju)を、名古屋市中川区のAbeliaが1年足らずで作り上げた。五月人形の組紐など、伝統工芸品資材の加工卸を手がける名古屋工芸から発した異色のベンチャー。前職で3Dプリンターを用いた試作事業に従事した岡田佳記事業部長と、3Dプリンターの研究・開発を行っていた脇本智正氏が核となり、海外勢が幅を利かせるAM市場に乗り出した。
特徴は上述の自動ツールチェンジ機能だ。3Dプリンターの課題は造形速度だが、Senjuは用途に応じ0.4~1.8㍉径のノズルを切替えて吐出量を調整。細かい物は小径ノズルで高解像度に、大きく粗い物は大径ノズルで一気に積層することで、造形速度は他機と比べ「ザックリ4倍」(岡田氏)に飛躍する。これなら大まかに3D造形した後に切削で仕上げる加工法も現実的。手動ノズル変更による精度ズレもない。
他の機能もベストを追求。精密な造形には吐出した樹脂の冷えと収縮を抑える必要があるが、テーブル温度を110℃まで、庫内を60℃まで一定かつ均一に調節する機能で他機が扱えない樹脂もプリントできるようにした。テーブル高さもタッチプローブを使い±5㍈で測定し、ノズル動作を正確に。CAE解析で筐体の剛性を高めた点も精度面で有利に働く。まとめると、「様々な樹脂を精度よく、しかも『粗く速く』と『細かく丁寧に』を選んで造形できる自由度の高い3Dプリンター」というところか。
■廃プラ、3D造形します
この何でもできるフラッグシップ機の開発が次なる事業展開に結びついた。「廃プラを受け取ってフィラメント化し、それを3D造形して返すトライアルサービス」(岡田氏)を始めたのだ。中部に集積する自動車関連メーカーの多くが事業で生じる大量の廃プラに頭を悩ませる。様々な樹脂を扱えるSenjuを使った同サービスなら、幅広い廃プラをすぐに3D造形し有益な用途を模索できる。「企業も手元の廃プラが3Dプリントできるかがわからない。それを我々が代行で確認するサービスです」。これを開始するや依頼が殺到。今は毎日のように各地を飛び回る。
同サービスは廃プラだけでなく、射出成形用の樹脂ペレットのフィラメント化にも応じる。現在流通するフィラメントの大半は海外製で高額。これが3Dプリンターの量産での活用を妨げる一因だが、「樹脂部品メーカーが在庫する大量のペレットの、ごく一部でもフィラメント化すればフィラメント価格は大幅に下がるはず」だからだ。部品メーカー側も、成形不良を起こしやすい再生ペレットを3Dプリントへ転用できれば資源循環を進めつつ小ロットの物を型レスで作れる利点がある。
同社が3Dプリンターの販売にとどまらず素材領域まで踏み込むのは「とにかく3Dプリントを世の中に広げたい」という岡田氏の思いゆえだ。Senjuの発売から半年足らずだが、すでに名だたる大企業がSenjuとそれを用いたトライアルサービスに注目する。もう半年後が楽しみになる。
AM事業部 岡田佳記事業部長と「Senju SV-04」
(2024年5月15日号掲載)