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産業潮流

生産性向上に挑む造船業 臼杵造船所

投稿日時
2026/03/11 13:58
更新日時
2026/03/11 14:09

3D設計とAM活用がもたらす生産改革、『臼杵の船』を次世代へ

大分県臼杵市で会社創立から37年、前身から数えると操業100年を超える歴史を持つ臼杵造船所。ケミカルタンカーで知られる同社は今、デジタル技術を核にした効率化を進めている。資材高騰や人手不足といった構造的な課題に直面する中、同社は3D設計ソフト「NAPA」の習熟や3Dプリンターによる模型活用を通じ、生産体制の合理化を推進する。取り組みに迫った。

船を『輪切り』にしたブロックと呼ばれる構造体の製造風景。10~15ミリの厚板を溶接でつなぎ合わせると熱で歪むが、それを予測したうえで組立誤差を微妙に「調整」する作業が熟練のワザ。臼杵造船所は「この技術のデータへの置き換えも進めたい」とする

1隻の船が完成し、引き渡されるまでの期間は、計画段階も含めると約3年におよぶ。まず引き合い段階での船主との協議や基本計画、詳細設計に1年半から2年を費やす。この間に船の性能を左右する「キープラン(基本図面)」や、製作に必要な作業図面の作成が行われる。

設計後はいよいよ実際の建造(船殻工程)だ。巨大な船体は一足飛びに完成形にはできない。そこで船体を“輪切り”にした鉄の塊(ブロック)をいくつも製作し、最終的に繋ぎ合わせる「ブロック工法」が採用されている。

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長い期間をかけて巨大な船が完成する

臼杵造船所は1隻を約100~110個のブロックに分割するのが標準だ。大きい物は長さ14m、重さはクレーンの限界に近い約80㌧弱に達する。NC加工機で鋼材を切断、溶接してこれらのブロックを形作るのに4~5カ月を要する。その後、船台と呼ばれる傾斜した作業場にブロックを運び、2.5カ月かけて船の形へ繋ぎ合わせていく。

こうして形になった船体は晴れて進水式を経て海へ下ろされるが、まだ終わりではない。進水後、さらに2.5~3カ月かけて内装や配管、電気系統等の艤装工事を行い、海上試運転を経てようやく船主へ引き渡されるのだ。

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完成したブロックは船台に移され船の形に組み立てられる。業界では自動化の必要性が叫ばれるが、船台は斜めで狭隘箇所の作業も多いため自動化は極めて難しいという。現実的にはブロックを地上で組み立てる工程で自動化を模索することになりそうだ

この壮大なスケールのモノづくりにおいて、品質の鍵を握るのは意外にも『精度』だ。「各ブロックの形が正確に合わねば、船は狙った形にならない。しかし厚さ10~15㍉の鋼材を溶接すれば、その熱で鉄は必ず歪み、収縮する」と、製造を担う造船本部副本部長兼艤装部長の田口浩幸氏は語る。

100m超の船体でもミリ単位の精度が求められる箇所がある。この歪みを計算に入れ、あらかじめ縮みを予測してモノを造る工程が、熟練工の勘と経験に依存する暗黙知の領域だった。だがそうした熟練技術者は目下、日本中で減少の一途にあり大分県もその例に漏れない。

■3Dで先を行く

この課題に対し、同社の大きな転換点となったのが約10年前の「NAPA」導入だった。元々は船舶の性能計算用ソフトとして知られ、後に船殻設計向けの3DCADシステムがリリースされた。これを同社はいち早く設計実務に取り入れた。

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設計の3D化が効率化に寄与している

船体設計部基本設計課長補佐兼設計DX推進室長 山本隆史氏は「少人数の体制で精度を上げ、人手不足をカバーするにはツールの統合が不可欠だった」と振り返る。以前は工程ごとに異なるソフトを使い分けていたが、現在はNAPA一本で計算から検討、形状調整まで一貫して行う。製造時の精度上の注意点を設計段階で事前協議できるため、先に触れた職人の勘コツによる誤差修正も容易になった。

この「使いこなし」のレベルで同規模の造船所より頭ひとつ抜けている。多くの同規模ヤードがNAPASteel(3DCAD)の導入を検討し始めた段階だが、同社はすでに習熟期を終え次のフェーズ(艤装設計向けの3D化)へ移行中だ。

「設計開発完了時に配置や鋼材の物量がデータ化されているため、製造部門は早期に精度の高い工程計画を立てられる。これこそが設計段階で課題を潰し込むフロントローディングだ」と執行役員設計本部長の村山和宏氏は強調する。

同社の取り組みで特にユニークなのが、設計データを3Dプリンターで出力し、模型として活用する点だ。この手法は国内のヤードでも珍しい。着手当初、NAPA日本法人からも「同様の取組みは国内で他に聞かない」と評されたほどだ。

山本氏は「画面上の3Dモデルでは物理的な感覚を掴みきれない。特に複雑な曲面を持つプロペラ周りの形状や、ブロック吊り上げ時の重心バランスを模型で確認できる意義は大きい」と話す。

実際にブロック模型を紐で吊るし、クレーンで吊り上げた際の安定性をシミュレーションしている。こうした“現物”を介した議論なら、熟練工と若手、あるいは設計と製造といった異なる立場間のコミュニケーションも円滑になりやすい。

現在、同社が注力するのはこのツールを技術伝承に役立てることだ。若手・海外人材への交代が進む中、言葉や経験の壁を越えて「船の勘所」を継承する必要がある。

「地元の学生の工場見学にも、3Dプリンター模型を使っている。巨大な船が『ブロックの積み木』のように構成されていることを視覚的に伝え、造船への興味を深めてほしい」と、教育面の期待も大きい。

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3Dモデルから船の模型を出力。「現物」を検証に用いることで新たな船型の設計や製造工程の効率化につながっている

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村山氏は「船主、船員など関係者全員にとって使いやすいバランスの取れた船が『臼杵の船』だ」と語る。今後も主力のケミカルタンカーで培った技術を核にした実直なモノづくりを続けるが、一方で船舶ルールの照合にAIエージェントを活用したり、シーメンスの「NX」を用いた艤装品(配管や機械類)の完全3D設計など、さらなる効率化を進める構想も描く。

巨大かつ一品一様の船をつくる造船業は、自動化や効率化が難しい業界とされる。ただデジタル技術の活用を進め製造工程も歩調を合わせることが、その突破口になるかもしれない。臼杵造船所の試みは、地方造船所が競争力を高める上での一つの指針ではないか。