産業潮流
紙の手形・小切手が利用廃止へ(2027年3月末交換廃止)
- 投稿日時
- 2025/09/29 10:42
- 更新日時
- 2025/09/29 10:48
(一社)全国銀行協会では2021年7月に「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を策定。「2026年度末までに電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする」ことを目指している。手形・小切手の電子化の目標期限まで残り1年半余り。全国銀行協会事務・決済システム部の武田直之調査役に現状と課題、紙の手形・小切手に頼らざるを得なかった中小企業の電子化について聞いた。

(一社)全国銀行協会 事務・決済システム部 武田 直之 調査役
――紙の手形・小切手が使えなくなる方向です 。
武田直之氏(=全国銀行協会事務・決済システム部調査役) 2026年度末には電子交換所における金融機関間の手形・小切手の交換が廃止されます。金融機関によっては、電子化促進の観点から手形・小切手の発行を終了するなど、利用がより限定的になってきています。
手形・小切手は、発行から輸送、現金化するまでに時間もコストもかかります。紛失や盗難、偽造といった紙特有のトラブルも懸念されます。また脱炭素の観点からもペーパーレス化は時代のニーズとも言えますし、電子化により事務負担軽減、コスト削減、リスク低減、場所を選ばず利用可能、資金繰り円滑化等、さまざまなメリットがあります。
――各金融機関の「手形・小切手の利用廃止」に向けた取り組みは。
武田 当協会が6月に行ったアンケートによると、既存の当座勘定利用先に対して手形・小切手を発行停止予定と回答した金融機関は892金融機関、全体の84%に上ります。3月に行った調査では288金融機関(27%)でしたので、多くの金融機関が2026年度末の全面的な電子化に向けて、積極的に取り組んで頂いていると実感しています。
――とはいえ、まだまだ紙ベースの決済も多いのでは。
武田 手形・小切手の交換枚数はピーク時の1979年には4億4千万枚に達しましたが、2024年には20分の1以下の1967万枚まで減少しています。加えて、今年5月には政府において、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立し、同法対象取引においては、手形払いが禁止されるなど、今後さらに手形や小切手を使い続ける理由が無くなっています。
――紙の手形・小切手の代替手段は。
武田 代表的なものでは電子記録債権「でんさい」やインターネットバンキングによる振込になります。「でんさい」は当協会が設立した「株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)」が取扱う電子記録債権の通称です。手形に代わる決済インフラで、手形の発行や管理にかかる事務負担・コスト・紛失・盗難のリスクを軽減し、資金調達を円滑化することを目的としています。利用者は金融機関に申込み、「でんさいネット」のサービスを利用する仕組みです。
■毎週セミナーを開催
――でんさい利用のメリットは。
武田 手形への記入・押印、取立依頼といった手間が不要になり、事務負担が軽減されます。印紙税や郵送料もかかりませんので、手形にかかっていた保管・管理コストも削減でき、現物のない電子データのため、紛失や盗難のリスクがありません。支払期日前に金融機関で資金化することや、分割して譲渡・割引も可能ですので資金繰りの円滑化にも貢献します。
――良いことづくめの電子化ですが、いまだに紙ベースの決済が行われている理由は。
武田 長年の商習慣から「これまでの経理事務を変えたくない」という意識がまだまだ強く残っています。経営者のなかには「紙で受け取り、印鑑を押す」という慣れ親しんだ手続きへの依存もあり、電子化に対する抵抗感があるのではないでしょうか。
――それでも、あとたった1年半で従来通りの手形取引が出来なくなります。まだ電子化対応していない企業は、サプライチェーンから取り残されてしまう懸念もあるのでしょうか。
武田 そのようなことにならないよう、なるべく早く電子化していただくことが、企業としては望ましいと思います。2026年度末まで残り1年半と迫っているなかで、電子化への移行に時間がかかるケースもあることから、早めに取引先と電子化の方針を共有し、しっかりと合意形成を進めることも重要です。
――高齢化や人手不足が顕著な中小企業において、導入ハードルを下げる施策は。
武田 導入支援のサポートをしている金融機関もあるほか、当協会とでんさいネットでは、2026年3月まで参加費無料のオンラインセミナーを毎週行っております。現在は「でんさい基礎編」、「操作特化編」、「でんさいライト編」の3種類を開催しております。あとから見返すことができるよう、アーカイブ配信も行っております。でんさいネットのウェブサイトから申込みができますので、是非ともご参加ください。
――昨年11月には「でんさいライト」のサービスを開始しました。
武田 スマホやタブレットからでもかんたんに操作できる手軽さも相まって、契約者数も伸長しており、受け取り利用を中心に利用件数も増加しています。年内には利用可能な金融機関が増える予定ですので、ますます利便性が高くなります。
電子化のメリット
(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)