《オンライン座談会》ロボット導入を本気で支援する<2>

かねてからの生産性向上、加工品質の安定化に加え、近年はウィズコロナ下で人との接触を減らそうと産業用ロボットに注目が集まっている。市場は最高水準だ(日本ロボット工業会の会員統計で2021年の受注額は前年比29.6%増の9405億円と過去最高に)。ただ、中小モノづくり企業や3品(食品・医薬品・化粧品)業界にロボットが十分に普及しているとは言いがたい。ロボット導入に欠かせないロボットSIer、ロボットメーカー、ロボットエンドアームツールメーカー、行政機関に集まってもらい、ロボット周辺環境の変化や越えるべき課題などを語ってもらった。

<出席者>
◎ロボットSIer:株式会社HCI 代表取締役社長 奥山 剛旭 氏
◎ロボットSIer:株式会社バイナス 代表取締役社長 渡辺 亙 氏
◇ロボットメーカー:川崎重工業株式会社 ロボットディビジョン 産機ロボット総括部長 吉桑 栄二 氏
◇ロボットメーカー:TECHMAN ROBOT INC.  Global Sales Department Director Judy Chang 氏
◆ロボットエンドアームツールメーカー:株式会社北川鉄工所 グローバルハンドカンパニー  自動化システムチームリーダー 中本 幸之介 氏
★行政機関:経済産業省  製造産業局産業機械 ロボット政策室長 大星 光弘 氏

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】ご出席の皆様
【画像3】経済産業省が主導する未来ロボティクスエンジニア育成協議会(CHERSI)

自動化が進まない中小や3品

原因はどこに?

●本紙:日本はロボット生産大国ですが、ユーザー大国とは言えなくなってきました。原因はどこにあるのでしょうか。

◎奥山(HCI):導入が進んでいない分野となるとやはり3品(食品・医薬品・化粧品)ですね。食品分野はなかなか価格が合わない。お弁当詰めなどではパートさんはけっこう器用にこなしてしまいますから。異物が入っていないかに配慮しながら、きれいに盛り付ける。唐揚げがなくなったから焼肉に変えるとか。これらをロボット化しようとすると高額になり、実現しない。パートさんが優秀なだけに。でも私は逆にこれがチャンスだと思います。先ほど当社の新本社にカフェを設置したと話しました。ロボットが調理をするんです。レトルトパックを使ったり加工済食品を提供したりと工夫すればロボットを活用できる。飲食店で問題なのはコロナ感染が落ち着いて再び人を雇用しようと思ってもそう簡単ではない。飲食業界は仕込みがあって最後の清掃があってと長時間労働が普通です。人手不足の理由の1つはここにあります。それといらっしゃいませからクレーム対応に至る仕事でどれだけのクオリティーを保てるか。一定基準のサービスを常に提供できるとなるとロボットが有効です。いろんなお客様に来ていただければカフェはロボットの展示場になり、当社がインテグレーターであることをアピールできます。今まで自動化が進んでなかったところにロボットを導入することにつながるのではないかと考えています。

◎渡辺(バイナス):当社は多種多様な分野を手がけてきましたが、自動化が進んでいないのは中小企業さんでしょうか。ロボットを触れる方がいるかどうかが重要になります。大星さんが言われたように人材育成が必要です。大手の生産技術の方は機械のほうはよくご存知です。でもロボットは何でもできるんでしょ、という発想になり、話が途中で食い違ってくることがあります。我々と同じレベルでとまでは言いませんが、現場の方々にもう少し勉強していただく必要があるかもしれません。PLC(Programmable Logic Controller=リレー回路を代替する制御装置)などの機器の勉強を含めて自動化を一緒に考える場として当社の研修センターを使ってもらえたらと思います。先日は機械加工の仕事をされているお客様で生産技術の若い方が―ほとんどロボットの知識がなかったのですが―10日ほどかけてみっちり勉強して帰られました。こんなふうにしていかないと現場で使いこなせないでしょう。

●本紙:ロボットを使う側も勉強していかないといけないという話、大星さんもしてましたね。

★大星(経済産業省):その通りだと思います。建設や金属加工の業界などで技能をもつ職人が少なくなってきているので、ロボットの能力と重要性を理解してもらいたいですね。ロボット導入のための専門の部署を設けてきっちり学ぶということも大事になると思います。

◇吉桑(川崎重工業):普及させるには2つの課題があると思います。世の中の自動化設備は基本、人が操作しやすいようにできています。でも人は器用なのでそこまでロボットがきめ細かく対応できないというのが現状です。日本ですら1万人の労働人口あたり400台弱、3〜4%しかロボットが入っていません。96%は人の方が優秀ということになります。人は目で見て触ってと五感で確認しています。一方でロボットは愚直に決められたことをひたすら繰り返す。昼休みも夜もなく。ビジョンセンサーを使って一部認識しますがまだまだ人には及びません。当社ではいま、視覚と触覚にフォーカスしてブレークスルーしようとしています。その1つがAIビジョン。かなり有望です。用途としてはたとえばリサイクル施設でのビンの選別。茶色と透明を分別するのを人がやっていますが、これは従来ビジョンではできませんでした。いろんなパターンのビンを登録しても半分くらいの認識にとどまります。これでは自動化できない。ところがAIでビンの種類を学習させて識別させると、98〜99%の精度で見分けます。人がカメラに撮ったもので識別できるものならだいたいAIでも識別できます。照明の当たり具合によって人でも識別できないものは当然AIもできません。こうしたAIビジョンを実はduAroを用いて商品化しており、日刊工業新聞の昨年の十大新製品賞をいただきました。AIとロボットの組み合わせはロボットの導入を促進するのではないかと思います。もう1つの課題は触覚・力覚。サクセサーに力覚センサーをつけたグラインダーシステムは押し当てて削る際に荷重が操作側に戻ってきます。本当に削っているかのように的確に力を感じながら操作できる仕組みです。今いろんなところにお試しいただいてるところで、これもブレークスルーするのではないかと期待しています。

◇Judy(TECHMAN ROBOT):世界で少子化・高齢化を迎えている国は少なくありません。人手不足にあっても若い人は3K(きつい・汚い・危険)に入りたくありません。当社が技術開発しているAIやビジョンは専門的な知識やノウハウをカバーできるのではないかと思います。たとえば溶接仕事をしている若い人が複雑な設備は使いたくないという会社が台湾や欧米にあります。そのため簡単に操作できるユーザインターフェースを各社が開発しています。溶接ロボットに関しては大手メーカーのロボットが一部採用されていますが、オペレートする人が足りていないので、当社はもっと簡単に操作できる協働ロボットを溶接機器メーカーさんと共同で開発しています。少量多品種溶接をする中小企業で需要が増えており、ダイレクトティーチングでの対応も提案しています。溶接だけでなく台湾では半導体などの工場が増えていきます。中国から仕事が戻ってきたりして。モノ売りからコト売りへ、解決のソリューションとして提供していく考えです。

◆中本(北川鉄工所):人の器用な作業に勝るものはないというのに同感です。エンドエフェクターの部分も同じことが言え、人の手に勝るものはありません。大きさも重さも硬い柔らかいも温度もわかりますから。これらの機能をすべて盛り込むことはできるかもしれませんが、コストが高くなりすぎて導入に結びつきません。なので必要とされる分野に必要な機能だけを付加して手頃な価格で導入いただけるようなものを今後作っていかなければなりません。当社はまだ金属加工分野しか見ていないので、今後はいろんな分野を視野に入れる必要があります。

●本紙:食品分野なんかも視野に入れると。

◆中本:需要があれば分野にこだわらず。金属加工分野だけでは工作機械が売れれば当社製品も売れますが、売れなければ仕事は減りますから。

企業間・産官間協業の可能性

専用の補助金があれば……

●本紙:産官学で協業が広がっているようです。せっかくの機会です、ご出席者への要望があればぜひお願いします。

◎奥山:経済産業省の大星室長への要望として、ロボットに特化した補助金制度を設けてほしいです。ものづくり補助金という大きな枠ではロボットはなかなか採択してもらえませんので。簡単なロボットでもそれを利活用することで効果を発揮するようなものも対象にしていただきたい。中小企業へのロボット導入には大きく2つ課題があります。操作の難しさと価格高。難しさは使ってみないと何とも言えません。ロボット安全教育を受けるには3日間で3万円くらいです。受講者の多くは、おもしろかったとしっかり学んで帰っていかれ、それを知った幹部はウチでも使えると実感してもらえます。価格高に関しては補助金があることを訴えていきたいのです。

★大星:中小企業庁のものづくり補助金は生産性向上の観点からロボットを導入する場合にも適用できます。ですが、ロボット専用の補助金をつくってほしいという要望として、しっかりと受け止めたいと思います。ロボットメーカーさん、ハンドメーカーさんが非常に素晴らしい製品を作っています。それを実際に導入するにはSIerさんの存在が欠かせません。経産省としても一緒になって導入を進めていきたいです。

◎渡辺:私どものSIer協会ではこれまで人材育成に取り組んできましたが、今度は導入していただく会社のためのセミナーを企画しています。奥山さんから出た補助金を組み合わせることができればなおよいです。これまでの講習はSIerを育てるようなものでした。今後やろうとしているセミナーは、導入する前と後でこんな変化が起きますよ、予めこんなことを考えておいてもらったほうがいいですよ、という内容で、そんな講習はあまりなかった。それと当社や協会だけではなかなか良いアイディアが出ないので、メーカーさんと一緒になって新しいシステムや分野を切り開いていくことを考えねばならないと思います。AMRの活用も広がりそうで、ロボットを1台、2台導入するという時代から10台、20台という時代になっていきそうです。

◇吉桑:国内外の企業と協業していますが、昨年6月にK-AddOn(ロボットと周辺機器のスムーズな接続を実現するプラットフォーム)という仕組みをスタートしており、本日ご出席の皆さんと協業あるいはご活用していただければと思います。グリッパーなど自動化に必要となる製品を登録するもので、登録製品は半日以下での接続が可能ということをモットーにしています。

◇Judy:米インディアナ州の州政府と大学がこれからの5年間、800万㌦を投入してインディアナ州で自動化センターを設立するという計画があります。社会人などを対象に自動化教育を展開するのが目的です。当社は世界におよそ100の代理店があり、その協力を得てこの事業に参画する考えです。ウィンドウズ95が出たときにパソコン市場が飛躍的に大きくなったように、当社は協働ロボットについても同じようなイメージを抱いています。

◆中本:K-AddOn、当社もぜひ参加させてもらえればと思います。あと当社もSIer協会に参加させてもらっているので、協業しながら当社の製品を会員企業に紹介させてもらえればと思います。より扱いやすいエンドエフェクターを多分野で使えるように開発していきたいと考えていますので、皆さまから気軽に声をかけていただければ幸いです。

(日本物流新聞 2022年2月25日号掲載)
《オンライン座談会》ロボット導入を本気で支援する<了>

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