オピニオン
Society5.0とスマートシティ ~都市計画との融合を~
- 投稿日時
- 2021/06/25 14:50
- 更新日時
- 2024/08/19 13:18
■Society5.0とは
早稲田大学 理工学術院 社会環境工学科 教授 森本 章倫
コロナ禍において情報通信技術ICTを用いたまちづくりが加速化している。コンピュータ上に構築された仮想空間(サイバー空間)と、現実空間(フィジカル空間)を高度に融合した新しい社会を我が国では超スマート社会(Society5.0)と呼称している。第5期科学技術基本計画(2016)において、これまでの社会を、狩猟を中心とした社会(Society 1.0)、農耕が盛んとなった社会(Society 2.0)、工業が発達した社会(Society 3.0)、そして現在の情報化の社会(Society 4.0)と区分し、それに続く新たな未来社会としてSociety5.0が提唱された。このシステムの構築により経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会の実現を目指している。
Society 5.0では、様々なモノがインターネットに接続(IoT: Internet of Things)し、そこから収集された膨大なデータ(Big Data)を人工知能(AI)が解析して、瞬時にロボットや機器に適切な処理を促したり、人に適切なサービスを提供したりする。こうした社会を実現する都市モデルが「スマートシティ」である。
■スマートシティの動向
我が国のスマートシティの議論は2010年頃に、スマートグリッドに代表されるエネルギー分野を中心とした議論からスタートした。スマートシティの定義は国や分野によって異なるが、国土交通省はスマートシティを「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義している。海外に目を向けると、米国においては、電力危機を背景とした送配電網の効率的運用の再構築のニーズからスマートシティが始まり、欧州では地球温暖化対策の一環として、都市の省エネ化、低炭素化を目的として取り組みが始まった。一方で、新興国におけるスマートシティは、雇用の確保や新規産業の創出を含めて新都市開発の事例が多く見られる。このように、その地域固有の課題に対して新技術を用いて解決する個別分野の議論から始まり、現在は分野横断的な取組が増え、対象エリアも広域の都市圏や国土レベルへと拡張している。2020年の新型コロナウィルスの世界的な大流行を引き金に、公衆衛生の分野においても感染拡大の抑止効果が期待されている。
■コンパクトシティ政策との融合に向けて
サイバー空間の利活用の議論が進む一方で、スマートシティの構築が都市構造自体に与える影響については不明瞭な点が多い。スマート化の影響範囲や適用分野が限定的な場合は、都市自体に与える影響は小さいが、広域化および分野横断的に拡大するとその影響は無視できない。特に、我が国は人口減少社会に対応した持続可能な都市モデルとして「コンパクトシティ」の推進を政策課題に掲げており、今後、政策間のトレードオフが発生することが懸念される。例えば、スマート化による郊外居住の利便性や快適性の向上は居住者の視点からすると望ましいものの、結果的に低密な市街地拡大を助長することにつながり、コンパクト化の政策効果を弱める可能性が高い。それを未然に防ぐためには、サイバー空間の構築が都市構造に与える影響を事前に予測し、これまでのフィジカル空間の計画と相互に連携を図りながら進める必要がある。
フィジカル空間をコンパクト化する政策は、都市計画マスタープラン(都市計画法第18条の2)でその基本方針を示し、立地適正化計画などで具体的に施設誘導を図っている。一方で、サイバー空間の計画については、スマートシティ・ガイドブックなどで基本的な理念や取り組み方法は提示されているものの、現時点ではその法的な枠組みは弱い。今後、サイバー空間におけるマスタープランの策定にむけた議論が期待される。また、両者をつなぐ役割を担う情報基盤プラットフォームの構築も急務となっている。ポストコロナにむけてテレワークなどサイバー空間の利活用の必要性はますます高まる。サイバー空間を新しい社会基盤施設として整備し、従来の都市基盤施設と賢い連携をとることが肝要である。