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オピニオン

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 名誉教授 佐藤 知正 氏

投稿日時
2022/07/26 16:20
更新日時
2024/08/19 13:20

(新エネルギー・産業技術総合開発機構〈NEDO〉 ロボット・AI部 アドバイザー)
アバターロボットシステムが不可欠のツールに

ロボットとSIerが近年、急速に能力アップを果たしている。自動化は今後どのような形で導入されるのか。ロボットを普及させるための国の様々なプロジェクトに関わる佐藤知正・東京大学名誉教授に聞いた。

さとう・ともまさ 1973年東京大学産業機械工学科卒業、1976年同博士課程修了後、電子技術総合研究所に入所。その後東京大学先端科学技術研究センターなどを経て遠隔操縦・環境型ロボットなどの研究・開発に現在も従事する。趣味は音楽。「音の流れの信号が音楽で、信号処理が好きなんです。ロボットもそんなふうに見ていて、各関節の動きを時系列データとして解析すれば面白いことができるのではないでしょうか」

——ロボット関連展が盛況です。会場で刺激を受けたことはありますか。

「アバターロボットをいくつか見て、これは爆発するなと思っています。遠隔から実物のロボットを操作するような、いわゆる代理人ロボットです。ホンダさんがアバターロボットに取り組み始めました。アシモの延長線上ですね」

——展示会場を案内するロボット、病院で患者の話相手をするロボットといった用途がありますね。

「私はその先を見ていて、実は産業用ロボットがアバターロボットになると思っています。SIerが作ったロボットもアバターロボットになる。どういうことかと言うと、システム導入後に不具合が起きることがあります。その時に産業用ロボットに対して原因を伝えて、その後ろにいるオペレーターやSIerから問題を聞き出して改善策を提案する。食品工場には強力な生産部隊がいるわけではなく、パートの女性が働いているようなケースが少なくない。作業者はこんな不具合が起こったよと、産業用ロボット兼アバターに報告する。不具合情報がアバターロボットを介して生産技術に詳しい人に伝えられると、その人は、もう少しこのあたりを詳しく見せてくれとか、プログラムを変更してみたので作業状況の変化を観察して報告してくれと指示できるようになります。そうすればパートの女性でも遠隔にいる生産技術に詳しい人と一緒になって改善できます。改善できないシステムは使えません」

——ビデオ通話との違いは何でしょう。

「アバターロボットは実際に自らのシステム(ハンド)を使って、現場で働いてみせることができます。1台のアバターロボットで100工場くらいいっぺんに見られるようにするとインパクトが大きなものになります。現場に足を運ばなくても、アバターロボットを介してパートの女性でも改善、メンテナンスができる。それでも何ともならない時にだけ現場に行けばよい。日本が世界のいろんな工場をロボット化する際、このようなアバターロボットシステムは不可欠のツールになると思います」

——産業用ロボットが能力アップを果たしています。

「昔はメカトロロボットだったものがメカノインフォマティクスロボットに変わってきました。メカトロロボットとは組み込みソフトウエアをもつロボットでした。これに対しメカノインフォマティクスロボットは、クラウド上にすごく大きなソフトをもったロボットです」

 「SIerもすごく大事な役割を果たすようになっています。私はサイバーフィジカルSIerと呼んでいますが、クラウド上の情報を馳駆して業界のノウハウを踏まえて動けるようになってきました。新しいことをやるにはスタートアップが大事です。SIerにしてもユニバーサルロボットがそうで、シミュレーターをユーザーに公開し、よいハンドなどの周辺機器をUR+として取り込んでいます。そういう意味ではスタートアップが協働ロボットの尖兵になっていました」

——コロナ禍が自動化に拍車をかけています。

「従業員が休むと工場が止まりますからね。日本はモノづくりの国でしたが、もうモノを輸出する時代ではない。これからの日本はモノづくり現場を輸出する国になってほしい。たとえば何かを瓶詰めする、パッキングするという作業はどこの国でも必要です。そのような作業をする信頼性の高いシステムは日本にある。それを全世界に売っていけばいい。日本の中小企業にロボット導入するというのがまず最初にあるが、その後システム+ノウハウのモノづくり現場輸出をすればいい。東南アジア、インド、アフリカ、中南米などへ輸出してゆけば、今後30年くらいは日本は食っていけるのではないかと期待しています」

2022725日号掲載)