オピニオン
学習院大学 経済学部 経営学科 河合 亜矢子 氏
物効法改正は「考えるきっかけ」
- 投稿日時
- 2026/02/23 16:00
- 更新日時
- 2026/02/24 16:03
荷主責任を起点に、経営として物流を捉え直す
4月に全面施行される物流効率化法の改正は、荷待ち時間の削減や積載効率の向上など、物流現場の改善を目的とした制度として注目を集めている。一方で、この改正を単なる規制対応として捉えるか、自社の経営やサプライチェーンを見直す契機とするかで、企業の将来像は大きく変わりかねない。学習院大学経済学部経営学科の河合亜矢子教授は「今回の改正は完成形ではなく、考えるきっかけだ」と指摘する。荷主企業は本法改正をどう受け止め、次の一手につなげるべきか聞いた。

学習院大学 経済学部 経営学科 河合 亜矢子 氏
――4月に全面施行される物流効率化法の改正について、まず全体としてどのように受け止めていますか。
「基本的にはポジティブに受け止めています。物流の問題は、物流事業者や現場の努力だけで解決できるものではありません。今回の改正は、荷主、ひいては社会全体がきちんと向き合わなければ根本的な解決にはならない、というメッセージを法律という形で社会に示した点に大きな意味があると思います」
――法改正の狙いは、どこにあると見ていますか。
「一番大きいのは気づいてもらうことです。物流を自分事として捉えていない限り、問題は前に進まない。そのことを法律の力を借りて社会的にオーソライズした。その第一歩として、非常に大きな改正だと感じています」
――一方で、形式的な対応にとどまる企業も出てきそうです。
「その懸念はあります。物流統括管理者、いわゆるCLOを選任し、法律で定められた項目だけを管理すれば十分だ、と考えてしまうと本質から外れてしまいます。改正法では荷待ち・荷役時間の削減や積載効率の向上などに焦点が当たっていますが、それらは物流全体から見たら非常に限定的な一部でしかありません。本当に重要なのは、そもそもどのようなオーダーを、どのような前提で出しているのか、という点です。オーダーが決まった状態で、どう効率よく運ぶかだけを考えても、できることには限界があります」
――詳しく教えて下さい。
「ロジスティクスやサプライチェーン(SC)は、本来、経営戦略そのものです。どのような価値を顧客に届けたいのか。そのために、どのような物流を設計し、どこに投資するのか。物流の効率化以前にオーダーをどう構築するかを考えなければ、物流はいつまでもコストセンターのままです」
――物流の効率化だけでは担いきれない部分も多いと。
「物流は非常に重要な役割を持っていますが、企業経営においては数あるレバーの一つにすぎません。企業価値を高める方向に物流を活用するには、SC全体を見渡す経営判断が不可欠です」
■泥臭い取組みがSCを強靭に
――SC全体で取り組むにはまず何をしたらいいでしょうか。
「実は、改革が進んでいる企業を見ると、とても泥臭い取り組みをしています。初めから最新のソリューションを頼るのではなく、現場に足を運び『なぜここでドライバーが2時間も待っているのか』『この積載率はおかしくないか』と、素朴な疑問を一つずつ解きほぐしていく。その過程で、問題が物流だけにあるのではなく、SC全体にあると気づいていくケースが多いです」
――最初から全体像を描く必要はないと。
「ええ。最初から高度なビジョンや理論を持っている必要はありません。ただ、現場を見て、データを取り、問題を可視化することは欠かせません。粗い数字で構いません。見えなければ議論も改善も始まりません」
――今後、取り組みを進めて行くためにも人材育成が重要になりそうですね。
「そうですね。国も『高度物流人材』の育成に力を入れていますし、今後そうした方向性の取り組みは進んで行くと思います」
――次世代を担う学生たちは物流業界に関心はありますか。
「残念ながらそうした学生は少ないというのが印象です。一方で、私自身は、物流やSCの専門家を増やすことよりも、ビジネスに関わる多くの人が基本的なSCの考え方を教養として身につけている状態をつくることがより重要だと考えています。というのも、物流やSCは営業や企画、経理など、どの職種でも必ず関わるものです。この前提知識を知らないまま仕事することで、結果として無理な要求や歪みが生まれてしまっているのではと考えています」
――学生だけでなく社会人も学ぶ必要がありそうです。
「最近は社会人向け講座など、SCMが学べる機会が少しずつ広がっています。仕事で物流や調達、販売に関わる立場になってから、その重要性に気がつく方も多いです。そうした方が学び直す場として、大学も開かれつつあります」
――最後に、荷主企業の経営層へメッセージをお願いします。
「法改正を単に穴埋めして提出するだけの『宿題』で終わらせるのはもったいない。この機会を競争力を高めるための『チャンス』として捉えてほしいと思います。まずは現場を見ていただいて、そこから考え試行錯誤する。その積み重ねが、結果として企業の競争力を高めるはずです」
(日本物流新聞2026年2月25日号掲載)