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(一社)日本マテリアルフロー研究センター 常務理事 中原 安篤 氏 
プロフェッショナルに聞く「アジア物流」の現在地

投稿日時
2026/02/24 10:01
更新日時
2026/02/24 10:05

――紅海情勢や台湾海峡、南シナ海などの地政学的緊張の高まりが、国際物流に与える影響は。

海上輸送は現在、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による攻撃の影響で、紅海、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を通るルートを選択しています。これにより、アジア欧州間の航行日数は約2~3週間延び、船の手配やコンテナの稼働率に悪影響を与えています。
 これら船舶需給のひっ迫と航行ルートの長距離化によって、コンテナ運賃も急騰しています。また紛争地域付近を航行する際の「戦時保険」の金額も上昇しており、荷主の負担がさらに増える結果となっています。さらにこれら物流の不確実性に備えるため、企業はジャストインタイムから在庫を厚く持つ戦略への転換を迫られており、在庫管理コストが増大しています。

プロフィール
中原安篤(なかはら やすあつ)氏=(一社)日本マテリアルフロー研究センター(JMFI)常務理事、安篤ロジスティクス・デザイン代表取締役社長。横浜国立大学卒業後、カゴメにて全社的なロジスティクスシステムの構築や効率化を主導。以降、日本IBM、CSK、ミスミ等で物流コンサルティングを務め現職に至る。「物流を制する者は経営を制す」を掲げ、物流のグランドデザインから現場のコスト削減、ロボティクス導入までを幅広く支援している。

――台湾海峡や南シナ海も緊張が高まっていますが、潜在的なリスクは。

いずれの航路も日本にとってはエネルギー輸送の要となっています。これらシーレーンの安全が脅かされると、さらなる迂回ルートの選択を余儀なくされる可能性もあります。また、台湾有事が発生した場合、世界経済への打撃は1440兆円に達するとの推計もあり、企業経営においては最大級のリスクになります。

このような地政学リスクに対し、企業は特定の輸送ルートに依存しない、陸、海、空を組み合わせた「マルチモーダル輸送」や供給先の分散化といった対策を講じることが急務となっています。

――物流におけるチャイナ・プラスワンは進んでいるのでしょうか。

物流拠点における「脱中国化」は、地政学リスクの高まりを背景に、現在も日本企業の間で加速しています。中国の生産コスト上昇や米中対立の影響を受け、拠点や調達先を東南アジアやインド、メキシコへ分散させる動きが主流となっています。

特にベトナムは人件費の安さ、親日的な国民性からチャイナ・プラスワンの有力候補として物流拠点の移転が続いています。ですが、社会主義国家ゆえの難しさもあり、政府の方針に左右されるリスクは否めません。

ここ数年、消費地に近い生産拠点構築、としてニアショアリングが推奨されてきましたが、昨今のトレンドは「フレンドショアリング」に傾きつつあります。これは価値観を共有する友好国へと拠点を移す動きで、政治基盤が安定しているASEAN諸国が日米欧の企業から選ばれる傾向が強まっています。

また分散した拠点を効率的に管理するために、AIやIoTを活用したサプライチェーンの可視化が加速しています。今後は単なる工場の移転だけではなく、設計や開発拠点をASEANに移管する動きが増加する動きがさらに進みます。それとともに、物流拠点の移転も進むのではないかと見ています。

■物流を俯瞰できる人材の育成へ

――アジア諸国も年々人件費の高まりやeコマース需要の増加など、DXや自動化は進められているのでしょうか。

日系大手や中国大手においては、倉庫管理システム(WMS)の導入や搬送ロボットの導入がある程度進められていますが、やはりまだ人海戦術を使ったほうがコスト的に安い、という国がASEANには多いのが実情です。

ただ、タイやベトナム、インドでは既存の非効率なプロセスを飛び越える「リープフロッグ型」の発展が見られます。高度化されたクラウド型WMSの活用より、複数国の拠点在庫をリアルタイムで一元管理する動きが加速しています。特に越境ECの拡大に伴い、保税在庫と通常倉庫を総合管理するニーズが高まっています。

またAIによる需要予測や、配送ルートの最適化といったラストワンマイルにおけるデジタル化ニーズも顕在化しています。

――国際物流においてはいかがでしょうか。

サプライチェーンの可視化は喫緊の課題ですが、アジア特有の事情により、欧米に比べ標準化が遅れています。ASEAN諸国は国ごとにデータローカライゼーション(国内保存義務)の規制が異なります。またパレットのサイズや伝票の書式、バーコードの企画などが国ごとによってバラバラで、物理的な標準化やデジタル化を阻んでいます。

加えて、サプライチェーンの川下に居る荷主は可視化を臨みますが、データの出し手(中小の配送業者や倉庫業者)にとって、データ提供のメリットが薄い点も可視化を阻む一端となっているでしょう。

――今後、国際物流におけるボトルネックを解消するには。

やはり、物流全体を俯瞰して見ることが出来る人材の育成が急務だと感じています。文化も言葉も違う国同士で意見をすり合わせるのは難しいですが、ロジスティクスを共通言語にすれば、互いの課題や解決策はおのずと見えてきます。ですので、物流をグランドデザインできるような人材が各国で育たないと、ボトルネックの解消はなかなか難しいと考えています。

そのためにも、私たちJMFIは日本国内だけではなく、アジア全域の物流人材育成にも積極的に取り組んでいます。

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陸海空を問わないマルチモーダル輸送が求められている



(日本物流新聞2026年2月25日号掲載)