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オピニオン

日本ロボットシステムインテグレータ協会 専務理事 高本 治明 氏

投稿日時
2025/11/25 13:11
更新日時
2025/11/25 16:35

ネットワークをますます構築、IT、AIの波がSIerの世界にも

日本に拠点をもつロボットSIerでつくる日本ロボットシステムインテグレータ協会は設立から8年目を迎えた(FA・ロボットシステムインテグレータ協会として2018年7月に設立)。23年には日本ロボット工業会から独立した一般社団法人として法人名を変え、会員数は現在342社と当初の約2.4倍に増加した。協会が注力する事業や課題を聞いた。

――SIer協会さんの会員企業がどんどん増えています。

「当協会は中小企業の集まりですからネットワークの構築、事業基盤の強化、人材育成の3つを事業の主な柱にしています。やはり1番目にくるのがネットワークの構築。SIerは地域性と専門性がありますから協業の余地がものすごくあります。ここが普通の工業会と違うところです。当協会では協調領域を探したり得意分野を補うかたちで、会員同士が知り合うことでより大きな仕事を受けられるようになります。たとえば、大阪や静岡の工場にロボットシステムを導入した後、北海道にも入れてほしいとなった時、ただコピーして入れるだけだとしても何かあった時に見に行くことが難しい。そんな時に北海道に知ったSIerがいると必要に応じて対応してもらえる。そんな協業も生まれています」

――今年度から会長1名、副会長5名の新体制に移りました。組織が大きくなったからですか。

「それもあります。2018年に当協会ができてから会長はずっと久保田和雄氏(三明機工社長)で、もう8年目です。次の世代に譲る体制をつくる必要があります。協会のなかでリーダーとして動いてくれる人を増やしたいという狙いがあります。事業企画、協会業務、人材育成、技術の4部門にそれぞれ長がついて、4部門を統括して全業務をまとめられる幹事会議長を設けました」

――業界で注目する動きはありますか。

「中国製ロボットがどんどん日本に入ってきています。それ自体はSIer業界にとって悪いことではありません。SIerとしては日本のロボットを使おうが中国製を使おうがかまいません。ただ勢いに圧倒されます。一方で日本のロボットメーカーもAIやオープンプラットフォーム対応を行う使いやすい機種を次々と投入しています。がんばっていただきたいです」

「この業界ではITの知識がもう必須になってきており、その対応が求められます。またシステムインテグレーション業務の中でフロントローディング(設計・開発の初期段階で後工程の問題を検討し改善すること)の活用が進んできていますが、そこをさらにAIの力で効率化する流れもあります。IT、AI活用の波はSIerの世界にも押し寄せています」

■汎用言語による制御の時代へ

――様々な催しを全国規模で開催されています。最も力を入れるのは。

「SIer's Day(主に講演で構成する会員とロボットユーザーの交流会)は当初は20〜30人しか聴講者がいませんでしたが、先日は180人が参加しました。地方で実施してもたくさん来てくれます。もう1つは次世代を担う若者に対する教育に力を入れています。学生など向けのロボットSI検定3級をいまプレ検定で実施し、工業高校の先生からも大きな支持を得ています。これまでに100人くらいを対象に行い、来年の2月から正式に実施する運びです。学校の授業の習熟度テストとして手軽に受けていただけるようテキストも作っています。そのテキストも評判がよく、いろんな学校で使ってもらっています」

「高校生ロボットSIリーグもあります。元々愛知県で開かれ、今回(12月)で第4回を迎え、WRS(ワールドロボットサミット)と同時開催となります。全国規模の催しで、今回から当協会が主催しています。学校教育の一環として、課題の自動化装置を学生が1年間かけて作ります。その際、各校にサポートSIerが必ず1社つくことになっています。インターンシップのような形で課題に向き合いますから人間関係もでき、その後生徒さんはそのSIerに入社するケースもあります」

――今抱えていらっしゃる課題は。

「これは個人的な意見かもしれませんが、ロボットシステムインテグレーションがこの先5年、10年でどう変わるか。とても気にかかります。産業用ロボット、PLC(Programmable Logic Controller=モーターやセンサー、スイッチ類の制御装置)を中心にして、自動車、電機向けのしっかりしたシステムを作る企業が依然多いのですが、一方で経済産業省がロングテールと呼ぶ分野に対してシステムインテグレートする企業が急激に増える可能性があります。これはヒューマノイドロボットの普及とも関係し、SIerに求められるスキルがこれまでの機械、電気制御から情報技術により重きが置かれることを意味します。PC中心の制御になり、AIやPythonなどの汎用言語(利用者が自由に改良や再配布を行えるオープンソースのプログラムに対応できる言語)の知識が必須になります。そんな汎用言語による制御に移った時に今のSIerはどう対応していくのか。またそうした情報に強いSIerに対して当協会は何を提供できるのか。これからの大きな課題だと思います」




一般社団法人日本ロボットシステムインテグレータ協会

2018年設立、会員342社(うち正会員229社)

東京都港区芝公園3-5-8

久保田和雄会長(三明機工社長)

ロボット・FAシステムの構築などを行うシステムインテグレーター(SIer)の共通基盤組織として、会員144社で2018年に設立(当初は日本ロボット工業会の内部組織「FA・ロボットシステムインテグレータ協会」として発足)。設立5周年を機に一般社団法人として独立。全国規模でSIer's Day(主に講演で構成する会員やロボットユーザーの交流会)やロボットSI検定(SIを行う上で必要な知識・技術を測定する検定試験。3級と2級を用意)、高校生ロボットSIリーグ(システムインテグレーションの競技会)などに取り組む。



(日本物流新聞2025年11月25日号掲載)