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オピニオン

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

投稿日時
2025/11/10 09:00
更新日時
2025/11/11 13:39

15・5規画:中国の5年後の未来予想図が明らかに

高市早苗自民党新総裁が女性初の首相に選出され、新内閣が発足した10月21日、習近平総書記率いる中国共産党中央委員会は重要会議(第20期4中全会)を招集し、中国の5年後の「青写真」を審議していた。第15次5カ年規画(以下、15・5規画)の「建議」(討論稿)である。

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。

15・5規画は2026~30年の5カ年にわたる中国の経済・社会の運営方針を示したものである。中国国務院(内閣)はこの建議に基づき政府要綱を策定し、来春開催予定の全国人民代表大会で審議のうえ、採択することになる。

建議にも示されているとおり、15・5規画は中国の長期ビジョンの中に位置づけられている。すなわち、「第2の百年」(新中国建国100周年)を迎える2049年までに「社会主義現代化強国」建設の実現に向けて、2035年までに一人当たりGDPを中位の先進国レベルに到達するという発展戦略だ(図参照)。15・5規画の建議は今年で完了する14・5規画の成果を踏まえつつ、この長期ビジョンを逆算して策定したものといってよい。

安部図.jpg

建議は総論と12の重点任務からなる各論からなる。本稿ではその特徴的な箇所をいくつか紹介したい。

まず、総論では、経済成長について触れている。成長はやや控えめに「合理的範囲内を維持する」とし、「全要素生産性(TFP)の上昇」を提起した点が注目される。TFPとは経済成長に必要な量的な生産要素(労働、資本)の増加以外の、質的な成長要因を示す。TFP上昇の具体例として労働者の意欲向上のほか、技能や熟練の上昇、さらには農村から都市への労働移動がある。中国は人口減少、高齢化が進行しており、労働、資本の投入に頼らない成長モデルが求められている。

また、米中対立など不安定な外部環境を考慮し、内需主導による経済成長が打ち出され、「個人消費比率の大幅引き上げ」が明記された。中国のGDPに占める個人消費比率は約40%と、米欧日、そしてインドよりも10~20ポイントも低い。コロナ禍後、不動産不況など消費不振が続く中で、個人消費の一層の喚起が急務となっている。

■量子技術など「未来産業」を列挙

次に各論で示された12の重点任務だが、15・5規画では前期と同様の任務が取り上げられているが、その序列に若干の変化があった(表参照)。順位を上げたのは、「産業発展」「対外開放」「民生保障」の3分野、順位を下げたのは「グリーン発展」である。

あべ表.jpg

「産業発展」では前期に提示された「戦略性新興企業」のほか、新たに「未来産業」として量子技術、水素・核融合エネルギー、ブレイン・マシン・インタフェース、エンボディドAI、6G通信設備が列挙された。なお、中国で著しく成長している「新エネルギー車」は明記されなかった。新エネルギー車は中国政府の手厚い支援策が奏功し、普及を後押ししたが、規画から外れることで、産業への影響が注目される。

「対外開放」は前期の9位から5位へと順位を大きく上げた。自主的な開放を積極的に取り組むほか、サービス業を重点として市場参入と開放分野を拡大するとしている。また、国際貿易ルールに依拠した「制度型開放」を拡大させ、広域・2国間の貿易投資協定の締結推進を加速するとした。

15・5規画の建議全体を通じて主導するキーワードは「自立自強」「新質生産力」である。中国が「第2の百年」に向けて目指す発展の形は「質の高い発展」であり、厳しさを増す対外経済環境の中でそれを確実に実現するにはどうすべきか。習近平政権はその方策を、自前のイノベーションで科学技術を振興し、「ハイテク、高効率、高品質」という特徴をもった新質生産力を発揮させることに求めた。にわかにはイメージしづらい「青写真」ではあるが、ここに中国の未来の姿が凝縮されている。



(日本物流新聞2025年11月10日号掲載)

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