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オピニオン

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

投稿日時
2025/05/15 09:00
更新日時
2025/05/15 09:00

初の民営経済促進立法で中国経済を活性化へ

トランプ米大統領は4月29日、ハネムーン期間とされる就任100日目を迎えた。この間、「米国第一の通商政策」の実現に向け、関税を強力な手段として各国に貿易交渉を求めてきた。トランプ関税の対象国は日本を含むほぼ全世界の国・地域に及び、なかでも最大のターゲットになったのが中国だ。

対中輸入品に断続的に課された追加関税は合計145%に達している。52日からは、免税扱いとしている少額輸入貨物について、中国本土または香港から出荷されたものは適用外として関税を賦課した。

中国もこれらの制裁措置に対抗し、合計125%の対米報復関税を発動するなど、「不跪(絶対に屈しない)」との姿勢を鮮明にしている。経済規模で1位と2位を誇る米中の貿易戦争は両国の経済だけでなく、世界経済全体に深刻な影響をもたらたすことが懸念されている。

■外需縮小リスクを内需でカバー

中国にとって2025年は大きな節目の年である。第145カ年規画(2021-25年)に加え、2015年に打ち出した製造強国建設に向けた経済戦略「中国製造2025」が最終年を迎える。習近平政権としては、トランプ関税による国内経済への影響を最小限に抑え、次の新たな5カ年規画をスタートさせたいところだ。

そのためには内需の拡大が不可欠となる。今年3月の全人代(国会に相当)の政府活動報告で示された2025年の重点活動任務10項目でも、最重点項目として「消費押し上げと投資効果の向上に力を入れ、内需を全面的に拡大」が掲げられた。

低迷が続いている消費は徐々に回復基調を示している。今年第1四半期の社会消費品小売総額は前年同期比46%増と、昨年通年の伸び(35%増)を上回った。政府の家電等買い替え奨励策が奏功し、特にスマートフォンなど通信機器の伸び(26.9%増)が顕著だった。

また、国内市場開拓に向けた新たな試みも始まっている。輸出品の国内販売に転じる活動だ。トランプ関税で行き場を失った輸出向け商品を、上海や広州など中国の一大消費地で販売を促していく。しかし、輸出品は外国仕様の規格、デザインで製造されているため、中国消費者のニーズをとらえることはそう簡単ではないようだ。

■民間企業の活性化で内需を喚起

内需拡大に加えて、中国経済のテコ入れ策として注目されるのが4月末に公布された「中国民営経済促進法」だ。520日に施行される。

社会主義市場経済体制を目指す中国では、建国以来の国有企業のほか、民間企業を代表とする非公有制企業(民営経済)が共存する「混合市場体制」を採用されている。民間企業は市場経済化の進展に伴い、その存在感を着実に高めてきた。そして、1997年の第15回共産党大会では、非公有制企業はこれまでの「社会主義市場経済の補充」から「重要な構成要素」と位置づけられるようになった。テンセント(98年)、アリババ(99年)、百度(00年)など中国を代表する民間テック企業の多くもこの頃に創業している。習近平国家主席は2018年の講話で「民営経済は税収の50%以上、GDP60%以上、技術イノベーション成果の70%以上、都市就業の80%以上、企業数の90%以上を占める」と述べ、中国経済への貢献を評価してきた。

しかし、市場競争において政府のバックアップを受け、優遇されている国有企業と比べ、民間企業は不利な立場を強いられている。例えば、事業参入許可や政府調達入札での不公平な扱い、銀行からの融資難、不当な費用徴収などが挙げられる。これらにより、民間企業の活力が十分に発揮されず、「国進民退」と呼ばれる傾向が強まっていた。民間企業が受けているこうした問題は、共産党、関係省庁でもたびたび議論され、行政指導などの形で改善するよう努めてきたが、目立った効果はみられなかった。

今回、民営経済発展を促す法律が初めてできたことで、民間企業の事業経営の安定化・効率化、生産性の向上が期待できる。それに伴い、イノベーションの推進や新規雇用の拡大が進めば、中国経済の持続的な発展に大きく寄与することになろう。

(日本物流新聞2025515日号掲載)