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超精密加工:成形と金型等の製造業ネットワークのあり方
- 投稿日時
- 2021/10/12 14:07
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
九州工業大学 機械知能工学研究系 森 直 樹 教授
((一社)モノづくりネットワーク九州 事務担当)
■最近の精密加工、成形の傾向
例年9月から10月は学会シーズンである。モノづくりネットワーク九州の事務担当でもあるが本職は大学教員であるので当然幾つかの学会に所属してそれなりの活動を行っている。最近の学会は企業よりも「学」からの発表が増加傾向であり、企業からはなかなか出にくい状況となりつつある。どの学会も。
企業会員の減少には頭を抱えていると想像される。とはいえ学会のテーマを俯瞰してみると個人的ではあるが世の中の流れが少しだけ解かることがある。例えば某学会の「生産システム」関連ではSDGsを念頭に置いた生産システムのあり方が提案されていた。従来生産システムはとにかく安価に生産性と安全性、その他を常に追求することのみを念頭に導入計画されており担当者は「稟議書」の作成に四苦八苦していると思われる。かつて小職も生産技術部に所属していた若い時代は作成と根回しに苦労した思い出がある。しかしながら昨今SDGsがあらゆる場面で配慮すべき時代となると生産設備が不要になった際の有効活用や環境への負荷も考えなくてはならない時代である。
「超」が付く加工や成形は時代の経過と共に進化している。かつてはサブμを想定していたがナノスケール等々単位系は変化していることを生産現場はもとより研究の分野でも痛感している。例えば光学や医療機器ではそれぞれの要求仕様がお互いに複合化している傾向になっている。医療やバイオ関係でもより微細な観察や分析が必要とされ光学特性が更に厳しくなっている。また成形の際の金型や素材もより超ファイン化されるようになり機械加工や表面処理にも環境への有害性や生体への影響が無いことが要求されている。
■課題、解決方法
医療やバイオ関係を始め微細な領域では従来の工法や加工方法が通用しない現状が増加していると日々感じている。機械加工では切削油や被削材、加工後の表面処理に用いる素材もこれまでと違う視点で研究開発する段階に来ている。最近の加工図面には多数の幾何公差や注釈表記が散見される。このような図面を中小企業の現場にいきなり持ち込まれても対応に苦慮する事態になっている。
さて現状に対応する方法であるが、これまで産学官を経験した立場を基に以下を提案したい。
どのような企業でも技術的な課題に関しては社内外に相談相手は当然持っておられると予想する。またIoTの発達により国内外の技術的な解決方法は以前に比べ調査が格段に容易になった。しかしながら真に困っている課題は世の中には隠れていることが多々有る。普段から学生には論文や文献検索や調査を指導するがその範囲や深さには満足することは無い。これは企業でも同様であると予想される。このような状況だからこそネット検索を超えるような相談相手を普段から探すこと、確保することが重要である。コロナ惨禍に於いては人的交流が希薄になったからこそ相談相手は重要であると痛感している。
また相談の結果ある程度の成果なり知見が得られたならば相手にフィードバックすることも大事である。大学にも多くの相談があるが一方通行の相手には今後も役に立とうと思わなくなる。
■製造業ネットワークとは
課題解決には相談相手が不可欠であると述べたが、この相談相手を繋げるしくみが「製造業ネットワーク」である。製造業としているのはターゲットが明確になることと関係者が入り易くするために製造業を付加している。製造業は日々世の中の変化に敏感に対応することが求められている。いきなりの仕様や納期の変更、人員の緊急入院や怪我、風水害や気候変動への対応など製造業を管理監督される方々の苦労や配慮は計り知れないものである。このような立場の方々の評価はもっと広く認知されて社会的にも取り上げて頂き、若い人への憧れの対象になって頂きたいと常日頃思う次第である。
このように製造業は日頃から課題対応に迫れている。この課題対応の助けになればと創設されたのが当ネットワークである。元々恩師の鈴木裕先生が近隣の中小企業の経営者や管理者の方々に声を掛けられ川沿いの古風な料理屋にて本音を伺い何か解決方法をみんなで考えようという意図が有った。当初は土地柄や気風?もあり集まり騒ぐことが優先されたが開発資金が無ければ公的資金や学や官を有効活用しようとか、大型の公的資金であればそれなりの組織対応が必要なので下地造りをやろう等々が発端である。
■最近の取り組みと今後の進め方
現在当ネットワークには幾つかの業務および技術の紹介・仲介機関が関わっている。これまでは企業へ面談を申し込んで現地にて打ち合わせで有ったが、コロナ禍においてはこれらが遠隔になりある意味費用や手間が省ける面もある。しかしながら実際の製造現場や製品サンプルなどのPRが遠隔では今一つなので今後は見せ方の工夫が要求される。マッチングの面談にはそれ相応の準備が不可欠である。面談相手の企業研究、面談する担当者のサーベイや過去に外部発表等があれば論文や業界誌の検索など出来得る限りの準備に越したことはない。このような準備は相手に安心感を与えお互いの距離感を近くする効果がある。
本原稿を書き上げている最中にウィズコロナへ世の中も舵を切りつつある。第6波とかも心配であるがものづくりはリモート勤務出来ないので、これを機会に多くの生産現場や製品を再度掘り起こすことを試みたい。従来から沖縄のものづくりネットワークや地方の企業との私的な繋がりがあるがこれらをより広く、深くすることが責務である。まずは各種の展示会や学会、研究会などへ出向き会員企業の出会いの場をリサーチすることになる。
(2021年10月10日号掲載)