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オピニオン

いま求められる物流改善

投稿日時
2021/08/26 15:13
更新日時
2024/08/19 13:18

東京海洋大学 学術研究院 流通情報工学部門 教授 黒川 久幸 氏

2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり需要でインターネット通販市場が拡大し、宅配便の取扱個数は前年度比11.9%も増加し、48億3647万個となった。

【プロフィール】 くろかわ ひさゆき
1996年、東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻単位取得退学。博士(工学)。東京商船大学助教授などを経て、2011年から現職に。全国から優れた物流改善事例を選定・表彰する全日本物流改善事例大会の実行委員会副委員長や物流現場改善士資格認定講座の講師など、物流・ロジスティクスの高度化のための表彰制度や人材育成などに関わっている。

しかし、緊急事態宣言の発出などによる自粛要請から経済全体としては消費の低迷、生産の縮小となり、自動車輸送統計調査(国土交通省)によれば2020年度は前年度412217万㌧から10ポイント弱減少する見込みとなっている。これにより、トラックの確保が容易になるなど、人手不足が若干緩和されたといわれているが、労働力不足の問題が解決されたわけではない。

我が国の総人口は、2008年の12808万人をピークに減少に転じ、2053年に9924万人と1億人を割り込み、2065年には8808万人まで減少すると見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の2017年推計)。そして、生産年齢人口(構成比率)は、20157728万人(60.8%)から2065年には4529万人(51.4%)まで、3199万人も減少すると推計されており、深刻な労働力不足の問題がある。

このため労働集約型産業である物流業においては、物流の生産性向上や省人化を推進するために、自動化・機械化の取組を推進していく必要がある。さらに、社会インフラである物流を「止めない」ためにもBCPの観点から、感染防止のために非接触・非対面型物流への転換を図る必要があり、自動化・機械化の取組が重要となっている。(公社)日本ロジスティクスシステム協会(JILS)において実施された「新型コロナウイルスの感染拡大による物流・サプライチェーンへの影響」第3回アンケート調査によれば、サプライチェーンにおける自動化・ロボット化・デジタル化への投資および投資への検討状況について、荷主企業の41.8%、物流企業の53.8%が、「変化がある」と回答している。そして、「変化がある」と回答した企業のうち、荷主企業の82.1%、物流企業の81.6%が、「自動化、ロボット化、デジタル化への積極的な投資、もしくは投資への検討が加速している」と回答しており、コロナ禍の変化に対応するために、自動化等への投資や投資のための検討を加速させている。

このような状況から物流向けロボット市場は急成長しており、ロボット自動倉庫やロボットが棚ごと商品を運んでくるものなど、数多くのロボットが市場に投入されている。そして、これらのロボットを物流現場に導入する方向には、大きく2つの方向がある。

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1つは複数種類の用途のロボットを組み合わせて導入するといった無人化を目指すような大規模な投資を必要とするもので、既存のオペレーションとは全く異なるロボット中心の設計を行った場合である。もう一つはピッキングや仕分け作業時の移動部分に無人搬送ロボットを導入し、既存のオペレーションの中にロボットを組み入れるといった、人とロボットの協働を対象としたものである。前者は、初期導入コストは高額となるが非常に生産性が高くなることから、物量が多くなると相対的にコストが安価となり、図の①に相当する傾向を示す。そして、後者は既存の人を中心としたオペレーションと①との間の②に相当する傾向を示し、比較的初期導入コストも安価で、物量が少ない場合でも導入が可能となる。

以上のように物流向けロボットの導入では、大きく2つの方向性があるが、安定して大量の物量を取り扱うような場合でなければ、図に示す①のような大規模なロボットの導入は難しい。しかし、一度、完全無人化の物流システムを完成してしまえば、圧倒的なコスト競争力で、シェアを独占し、これによってさらにコスト競争力において他社を圧倒する企業が現れる可能性も秘めている。

では、物流の装置産業化が進むと既存のオペレーションを行っている物流企業は生き残れないのであろうか? 私自身の考えは、「ノー」である。物流は生産と販売を繋ぐものであり、サプライチェーン全体で最適化されなければ意味が無い。つまり、物流の改善は、物流単独で既存業務の効率化を図るだけでなく、納品時間の見直しなど、物流条件そのものを見直し、サプライチェーン全体でさらなる効率化を図るほか、アパレルなどの商品をECサイトで販売するためのささげ業務(撮影、採寸、原稿作成)を行うといった付加価値を高める改善が必要である。

この物流条件そのものを見直しした改善事例として、2018年度ロジスティクス大賞経営革新賞を受賞した乾汽船や2015年度ロジスティクス大賞を受賞した大塚倉庫の事例がある(ロジスティクス大賞はJILSの表彰制度の一つで1984年度に第1回の表彰を行っている)。改善効果として大塚倉庫の事例をご紹介すると、午前中に集中していた納品を当日の午後と翌日の午前に、ほぼ均等に分散させることが出来たことにより、荷主(メーカー・卸売企業)においてリードタイム短縮による在庫削減、庫内作業の分散化による人員の適正化を達成したほか、物流企業において車両の回転率向上(+0.45回転)、車輌台数の削減(250台)、ドライバー不足への対応を実現し、その結果として、営業利益率が6ポイントも上昇している。関係者相互のメリットを創出しており、連携の重要性がよく分かる取組事例である。

ちなみに、物流業は労働集約型産業と先に述べたが、実は総資産に占める固定資産の割合は高く、製造業や小売業者の40~60%に対して、80%を超えている場合もある。今後、物流拠点においてロボットの導入が進み、装置産業化していくのであれば、益々ムダにロボットを遊ばせることがないように、サプライチェーン上の企業間の連携を強化し、物流条件の見直しに着手する改善が重要となってくる。企業間連携による製販物一体の改善が、大きな改善を実現する要となる。