オピニオン
国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 住宅環境整備室長 石井 秀明 氏
- 投稿日時
- 2024/01/11 10:59
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
空き家法改正、『活用』促進と所有者『管理』を強化
12月13日、「空家等対策の推進に関する特別措置法」の改正法が施行された。総務省の住宅・土地統計調査によれば、「使用目的のない空き家」は2018年までの20年間で約1・9倍の349万戸に増加。30年には470万戸程度まで増加すると見込まれている。政府は良質な住宅ストック構築に向けて取り組みを進めており、「除却」から「活用」「管理」へと視点を広げた今回の改正内容について、国土交通省・住宅局住宅総合整備課住宅環境整備室長の石井秀明氏に話を聞いた。
――法改正の背景を教えてください。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2015年に施行されて以降、特定空家等への対応は着実に進められてきました。「空家等対策計画の策定済み」の市区町村は80%を超え、「策定予定」の地域を入れると94%の市区町村が取り組みを進めています。特定空家等に対する措置を行う市町村も年々増加しており、施行直後と比較すると約3倍になっています。法の活用が広がる一方で、見えてきた課題に対応したのが今回の法改正となります。
――改正のポイントを教えてください。
旧法は「安全」「衛生」「景観」「その他」の4つの観点で「周りへの悪影響」を及ぼしている特定空家等への対応が中心となってきました。こうした建物への対処は膨大な人・時間・コストが必要となるため、特定空家等になる前の段階から対処しようというのが今回の改正の目的。ポイントとしては旧法からある「除却等」の強化に加えて、「活用」「適切な管理」を追加したことです。
――除却等の強化について教えてください。
特定空家等に指定された空き家は指導・助言→勧告→命令→行政代執行の順で措置が行われます。今回の法改正でも基本的な流れは変わりませんが、災害発生時や発生が危惧される緊急時に迅速に除却等を行うため、勧告までを終えていた建物であれば、命令を経ずに代執行を行えるようにしました。また、所有者不明の際に行った代執行の費用回収についても、後で所有者が見つかった場合、裁判所の判決を経ずに差し押さえなどができるよう取り組みを強化しています。
■活用と管理が改正の鍵
――活用と管理についても教えてください。
前述の通り、除却へ至るためには膨大な社会的コストがかかります。特定空家等になる前に活用・管理を促す必要があります。活用は端的に言えば不動産流通のことですので、流通を活発化するために空き家の存在が課題となる地域をフォーカスする「空家等活用促進区域」の制度を新設しました。促進地区の典型的なイメージとしては、用途規制の厳しい郊外の住宅団地や建築基準法に抵触する細路の多い歴史的街並みなどです。そうした区域を市区町村が指定した上で、建築条件などを明示することで許認可の予見可能性を高め、民間による改修や建替えの促進を狙うものです。
――管理についても教えてください。
「管理不全空家等」という概念を新設しました。放っておくと特定空家等になる可能性の高い建物に対し、市区町村が修繕などの指導と勧告できるものです。勧告まで行くと特定空家等と同様に「固定資産税等の住宅用地特例」の対象から外れます。管理不全空家等は特定空家等よりも対象範囲が広く、市区町村の業務が増加する可能性があるため、改正法ではNPOや会社などにアウトソーシングできる仕組みとして「空家等管理活用支援法人」という制度を取り入れました。役所側のメリットだけでなく、事業者に公的信頼性を付与するという意味で、両者にとってメリットがある仕組みになっています。
――最後に一般の方が空家法改正に関心を持った場合、まず何に取り組むべきですか。
放置しないということにつきます。一般の方向けの広報ツールには「空き家は放置せず『仕舞う』『活かす』で住みよい街に。」というコピーを入れています。活用・管理・除却がポイントだと述べてきましたが、適切な活用・除却が行われていれば管理の手間は発生しません。お持ちの空き家を放置せずに、活用や除却を決断してもらうのが本筋だと思っています。それでも管理に至ってしまった場合は、政府として管理のあり方を「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」に記載していますので、そちらを確認いただければと思います。
(2024年1月10日号掲載)