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オピニオン

厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 化学物質対策課 課長 安井 省侍郎 氏

投稿日時
2023/12/22 10:46
更新日時
2024/08/19 13:18

新たな化学物質規制、「個別具体的」から「自律的」管理体制へ

2023年4月から労働安全衛生法における「新たな化学物質規制」が施行された。従来は約670物質を対象としていた規制措置を2026年までに約4倍の約2900物質まで拡大することが話題となった。新たな規制の狙いや方向性を所管する厚生労働省・労働基準局安全衛生部化学物質対策課の安井省侍郎課長に聞いた。

――4月より労働安全衛生法(安衛法)における「新たな化学物質規制」が施行されています。まずは概要を教えて下さい。

従来の化学物質規制は、石綿のような製造・使用が禁止されている8物質と特定化学物質障害予防規則(特化則)・有機溶剤中毒予防規制(有機則)などに基づく個別具体的な措置義務のある123物質、ラベル表示義務SDSSafety Data Sheet)交付義務・リスクアセスメント義務のある674物質(前述の123物質を含む)への規制にとどまっていました。本改正によって、規制対象物質が約2900物質まで拡大するとともに、自律的な管理体制の構築が義務付けられるようになります。

――改正の狙いは。

特化則などの枠組みによって、化学物質に起因する労働災害は年間450件ほどを推移しています(2000年代は700件超)。それに伴い特化則などの規制の対象外物質による事故割合が高まるとともに、現行法ではがんなどの遅発性疾病を引き起こす物質に迅速に対応できない課題もありました。化学物質は毎年1000種類ほど増えており、全物質に網をかけるような規制へと変更することで、更に事故件数を減らしたいと考えています。

――改正のポイントは。

特化則では限られた物質に対して個別具体的な規制を設けてきました。そのため、企業としては法令を遵守していればよかったのですが、今回の改正では規制の本来の目的であるばく露の最小限化などの「結果」の遵守を義務付け、それを達成するための手段は各事業者の業種・業態・事業規模などによって適切に選択できるようにしています。これを我々は自律的管理と呼んでいて、各事業者が自律的にリスクを把握し、それに適切に対処することを求めています。

■使用している物質把握が最重要

――対象事業者が取り組むべきポイントを教えて下さい。

「管理者の選任義務化」や「雇入時教育の拡大」など取り組むべきことは多々ありますが、化学物質を含んだ製品を譲渡・提供する企業は、現在約670物質を対象としている「ラベル表示・SDS交付による危険性・有害性情報の伝達義務」を、2900物質ほどまで拡大する必要があります。来年4月からは発がん性物質や重篤な症状を引き起こす234物質が追加され、翌年以降も2段階に分けて拡大予定ですので、順次対応する必要があります。

――ユーザー企業はどのような取り組みが必要ですか。

化学物質を含んだ製品を使用する企業が取り組むべきこととして、主に「リスクアセスメント対象物に関する事業者の義務」と「皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止」があります。

――リスクアセスメント対象物に関する事業者の義務について教えてください。

危険性・有害性が確認された化学物質へのばく露を最小限かつ、濃度基準値が定められている物質は基準値以下にすることを義務付けています。自社が使用している製品のSDS情報を把握するとともに、使用している化学物質のばく露の推定値の算出や実測、リスク低減策に取り組む必要があります。リスク低減策は、第一に有害ではない材料に代替できないか検討し、次に局所排気装置などの活用、最後にマスクなどの保護具という優先順位で、対策を検討する必要があります。

――皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止についても教えて下さい。

皮膚等に障害を与える物質による障害を防止するためには、その物質に皮膚が直接触れないようにする必要があります。このため、健康障害を引き起こすような物質を取り扱う際は、不浸透性の手袋など適切な保護具の使用を義務付けるものです。皮膚等障害化学物質等の分類は2つあり、1つは酸やアルカリなど皮膚に具体的な刺激や反応がある皮膚刺激性有害物質。もう1つは皮膚から吸収されてがんを引き起こすような皮膚吸収性有害物質です。有害物質のばく露の経路として、皮膚からの吸収と、呼吸による吸入が同時に起きることも多く、保護手袋の使用と並行して呼吸用保護具を使用する必要がある場合もあります。

■建設業や商業、清掃などにも規制波及

――残り3カ月ほどで規制の本格的な運用が始まります。現状をどう捉えていますか。

今回の規制で最も重要なことは自社で使っている化学物質を抜け漏れなく把握することですが、現在多くの企業が躓いているのもここになります。製品は純物質でないことがほとんどであり、数万種類もの製品を扱う大企業はこの一歩目に難航していると耳にしています。一方で、製造業系の企業はここさえ抑えれば対策自体は慣れているので、取り組みは加速していくとみています。

――見えてきた課題はありますか。

いまだにSDSの多くが紙で提供されているということです。政府としては電子化を推進するとともに、事務処理の手間がかからない仕組みづくりに向け、電子データの規格の統一の検討も始めています。また、今回の改正の一番のポイントは、従来よりも関係業種が幅広いことです。対象となる化学物質を扱う業者であれば、建設業や商業、清掃・と畜なども規制の対象となります。製造業以外の業界への周知が十分ではないため、徹底していく必要があると考えています。

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20231225日号掲載)



厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 化学物質対策課 課長 安井 省侍郎 氏