オピニオン
コロナ禍後のニュー・ノーマルを共に考えよう−8
- 投稿日時
- 2020/11/26 18:34
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
アフターコロナでの自動車産業と環境問題
コロナ禍に振り回されてきた2020年の終わりに、世界の政局が大きく変わろうとしている。米国大統領選でバイデン氏が勝利(まだ確定ではないが)、「米国を世界から再び尊敬される国にする」と宣言した。新型コロナ、経済再生、人種・移民問題を直面する課題としながら、環境政策としてパリ協定に即時復帰、2050年までに温室効果ガス排出をゼロにする等の推進を強調した。バイデン氏は、これまでも気候変動に熱心に取り組んできた人である。
日本の菅首相も所信表明で、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会実現に最大限注力していくと表明。2050年のカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに「宣言」すると強調した。鍵となるのは、次世代太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションであると指摘している。
EUは元々温暖化ガスゼロに熱心で、日米欧の先進国が足並みをそろえたことに歓迎の意を表明している。今後、世界最大の温暖化ガス排出国であり、かつ世界最大の自動車生産・販売国である中国を中心に、環境対応車(BEV、PHEV)への移行が強力に進められると予測される。
図は、世界の自動車販売台数の推移である。コロナ禍の前の2017年をピークに世界の自動車販売量はすでに減少し始めていた。18年、19年の2年連続の中国での需要低迷、好調であったインドの失速が大きな要因とされる。そこにコロナ禍が襲って20年上半期は、自動車生産の停止と販売急減に見舞われ、通年においては前年比2割減に落ち込むと予測されている。17年のレベルに戻るには5年程度要すると見込まれる。
しかし、今年の2月に新車販売台数が前年同月比の79.1%減となった中国が、10月には前年同月比12・5%増まで予想以上のV字回復をしてきた。インドも、10月は前年同月比14%増と回復の様相を見せている。懸念は、インド、米国に加え、欧州での新型コロナ感染者の増大である。
18年、19年の中国での販売台数減少の原因は、政府による新エネルギー車(NEV)販売促進のための優遇措置(補助金等)が無くなってきたためである。そこで中国政府は、コロナ禍での景気回復のためにNEV購入の補助策を強化した結果、20年下半期の新車販売台数の回復につながっている。もう一点、コロナ禍での感染防止のため、公共交通機関利用からマイカー利用への移行も新車販売増に寄与している。このことは、世界各国のアフターコロナでも期待できる点で、世界の自動車販売の復活は、図の予測より早くなるかもしれない。
なお、日本やドイツの自動車メーカーは、V字回復している中国市場を対象として、BEV開発や製作に力を入れ始めている。しかしBEVでは、規模の経済性メリットが無く、高級車の小規模生産では利益が出るが、低価格車の大量生産では収益性が悪くなる。BEVで成功しているテスラは、高級車から始め、かつ温暖化ガス排出枠(クレジット)で収益を上げているが、中級車の大量生産に移行すると収益性での危惧がある。また、現在のBEVで使用されているリチウムイオン電池は必ず劣化し、車載用電池の劣化を認識し始めるのが6~10年と言われ、25年頃から電池の廃棄処理が大きな問題となってくる。リサイクル・リユースの開発が必須である。
何を警告したいかと言うと、製造業はまずBEVシフトへのマスメディアの大合唱に振り回されないことである。また、今中国でビジネスを展開するのは得策かもしれないが、入れ込みすぎると危険である。バイデン政権での米中覇権争いに注視であるが、菅首相が最初の外国訪問国としてベトナムとインドネシアを選択、(中国を意識した)「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向け連携を確認したのは正解である。インドネシアは人口も多く、資源国であり、日本にとって今後重要な国となる。そのインドネシアに、一帯一路の重要拠点と位置付け、中国が接近している。それに対して米国も軍事上の危機感から、ポンぺオ米国務長官がインドネシアを訪問、中国を牽制している。
アフターコロナの長期展望としては、中国よりもASEANからインドへのビジネス展開を筆者としてはお勧めしたいのである。
オフィスまえかわ 代表 前川 佳徳
同志社大学大学院工学研究科および神学研究科終了。工学博士、神学修士。大阪府立産業技術総合研究所研究員、大阪産業大学デザイン工学部教授を経て、現在オフィス・まえかわ(ものづくり企業支援)代表。製造業のアジア(とくにタイ)展開支援を行っている。タイAlliance for Supporting Industries Association 顧問、日本・インドネシア経済協力事業協会顧問、日本キリスト教団伝道師などを兼務。専門はCG/CAE、デジタルものづくり。型技術協会元会長、現名誉会員、自動車メーカー・部品メーカーとのネットワークに強い。